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帰りのホームルームを終え周りが賑やかになり出す中、雛はぼんやりと窓の外のグラウンドを眺めていた。
今は誰もいないグラウンドだが、じきに1、2年生たちが部活のために集まり始めるだろう。
3年になってから、学年の空気は少しピリついているように感じる。
進学校であるため大学へ進む者は多く、雛も同様に受験生だ。
日課のランニング以外では、殆ど勉強づけの毎日である。
「もうすぐで冬とか、高校生活あっという間だなぁ」
聞き慣れた声と、人の気配が2つ。
よく教室で連む、バスケ部の圭一と俊輔だ。
同じ部活で仲の良い2人にいつしか話しかけられるようになり、行動を共にすることが増えていた。
「3年は特に、勉強に追われて終わっていくしな」
「ああ辛いぃ…。ヒナちゃん、疲れ切った俺を癒やして〜」
「重い」
背後からのしかかってくる俊輔に抗議するが、構わずくっ付いてくる。
寒くなってきたとはいえ、男に抱きつかれるのは暑苦しかった。
「ん?なんか雛、甘い匂いしない?」
「え?」
突然の指摘に、心当たりがなくポカンとする。
しかし次にはぼんやりとした記憶が蘇った。
朝が弱い雛は、寝起きは非常に無防備である。
寝ぼけながら朝の支度をして、登校している間にだんだん意識が覚醒していくのだ。
その間のどこかで、真斗に何かを吹きかけられたような気がする。
今までの経験からするに、母さんの香水でもかけてきたのだろう。
理解不能な兄のイタズラに、雛は眉間にしわを寄せた。
「お、ホントだ。ヒナちゃんお花の香り」
「かわい〜」
「うるせぇ」
揶揄ってくる2人にイラッとし、のしかかってくる俊輔の耳を引っ張る。
それに大袈裟に悲鳴を上げる俊輔。
前の席に腰掛けた圭一は無表情で携帯をいじり出し、シカトを決め込んでいた。
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