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「おい折笠、こっち来い」
友人と戯れあっていると、不意に担任から声がかけられる。
なんだろうかと顔を向け、無意識にヒュッと鋭く息を吸い込んだ。
教卓にいる担任の側には、もう1人男子生徒が立っていたのだ。
180はありそうな長身。
男らしく凛々しい顔にスポーティな短髪と黒縁の眼鏡がよく似合っている。
その奥に見える瞳がこちらを向いて、ドクンと心臓が跳ねた。
呆然としていた雛だったが、もう一度名を呼ばれ強張った体でぎこちなく立ち上がる。
「なんかお呼びみたいだな」
「じゃあ俺もう帰ろっかな。これから塾だし」
「圭一は公立だもんなぁ。んじゃ俺も帰るか。じゃあな、雛」
「……おう」
意図せず素っ気ない態度になってしまう。
しかし2人は特に気にした様子もなく、席を離れていった。
俺は一度小さく息を吐き出し、担任の元へと向かう。
「…なんですか?」
「あぁ。お前今日日直だろう。ちょっと雑用頼まれてくれ」
「雑用…」
「化学準備室に荷物を持っていって欲しいんだ」
そう言って担任は教卓に置かれたダンボール箱に手を乗せる。
なかなか大きめの箱が2つ。
運ぶのはかなり骨が折れそうだと思っていると、それが顔に出ていたのか担任はさらに付け加えた。
「流石に1人でやるには骨が折れるからなぁ。柴崎はスケット要因だ」
そう言って親指で隣の彼、柴崎岳を指さす。
顔が熱くなるのを感じ、雛は僅かに顔を俯けた。
「こんな雑用、受験生にやらせるます?フツー」
少しハスキーな、溌剌とした声が前方からする。
同じクラスである柴崎の声は耳に馴染んでいる。
よく通る、心地の良い声だ。
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