秘め事

7/18
前へ
/109ページ
次へ
「よく言う。どうせ真面目に勉強なんてせんくせに」 「うわ、ひっでー」 人懐っこい柴崎は教師たちにも好かれていた。 兄とはタイプは違うが、サッカー部でキャプテンを務めたりと、常に輪の中心にいるところは似通っている。 なんの嫌味もない、カラッと晴れた空のような笑みを浮かべるのだ。 誰に対しても平等で、柴崎のいる所はいつも輝いて見える。 「そんじゃ、ちゃっちゃと運んじまうか」 軽く袖を捲り、柴崎は軽々とダンボールを持ち上げた。 「折笠、大丈夫?俺2つ持とっか?」 「…いや、それじゃ俺呼ばれた意味ないだろ」 「あ、そりゃそうだな。でも折笠ってそこら辺の女子よりずっと繊細っつーか、か弱い感じするからさぁ」 その言葉に近くにいたクラスの女子が「だまれ岳」「男勝りで悪かったな」とヤジを飛ばす。 雛自身も不服に思うところはあるので、さっさとダンボールを持ち上げた。 それなりに重かったが、運べないほどでもない。 目だけで柴崎を促すと、柴崎は「悪い悪い」と悪戯っ子のような笑みを浮かべて歩き始めた。 「俺、ずっと折笠と話してみたかったんだよな」 「えっ?」 廊下を歩きながら唐突に言われた言葉に間の抜けた声が出た。 3年で初めて同じクラスになり、話したこともあまりない。 2人きりになったのもこれが初めてだった。 「同じ外部だし、グラウンドで見かけること多かったんだよ」 「…そっか」 「走ってる時のフォーム、綺麗だよな。つい見入っちゃって、よく顧問に怒られた」 「……」 柴崎の意識がこちらに向けられている。 そう感じるだけで、相手の動き1つ1つに過剰に反応してしまう。 一方的にこちらが認知しているだけだと思っていた。 告げられた事実に実感が持てず、呆然としてしまう。 俺も同じだった。 1年の頃から、その姿を目で追っていた。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加