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「よく言う。どうせ真面目に勉強なんてせんくせに」
「うわ、ひっでー」
人懐っこい柴崎は教師たちにも好かれていた。
兄とはタイプは違うが、サッカー部でキャプテンを務めたりと、常に輪の中心にいるところは似通っている。
なんの嫌味もない、カラッと晴れた空のような笑みを浮かべるのだ。
誰に対しても平等で、柴崎のいる所はいつも輝いて見える。
「そんじゃ、ちゃっちゃと運んじまうか」
軽く袖を捲り、柴崎は軽々とダンボールを持ち上げた。
「折笠、大丈夫?俺2つ持とっか?」
「…いや、それじゃ俺呼ばれた意味ないだろ」
「あ、そりゃそうだな。でも折笠ってそこら辺の女子よりずっと繊細っつーか、か弱い感じするからさぁ」
その言葉に近くにいたクラスの女子が「だまれ岳」「男勝りで悪かったな」とヤジを飛ばす。
雛自身も不服に思うところはあるので、さっさとダンボールを持ち上げた。
それなりに重かったが、運べないほどでもない。
目だけで柴崎を促すと、柴崎は「悪い悪い」と悪戯っ子のような笑みを浮かべて歩き始めた。
「俺、ずっと折笠と話してみたかったんだよな」
「えっ?」
廊下を歩きながら唐突に言われた言葉に間の抜けた声が出た。
3年で初めて同じクラスになり、話したこともあまりない。
2人きりになったのもこれが初めてだった。
「同じ外部だし、グラウンドで見かけること多かったんだよ」
「…そっか」
「走ってる時のフォーム、綺麗だよな。つい見入っちゃって、よく顧問に怒られた」
「……」
柴崎の意識がこちらに向けられている。
そう感じるだけで、相手の動き1つ1つに過剰に反応してしまう。
一方的にこちらが認知しているだけだと思っていた。
告げられた事実に実感が持てず、呆然としてしまう。
俺も同じだった。
1年の頃から、その姿を目で追っていた。
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