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――ホテルも久しぶりだ。
約束の時間より十五分早く着いてしまい落ち着かない。
今になって午後三時にしたことを後悔した。
夜にしてホテルが混んできたら嫌だなという気持ちと仕事の打ち合わせの感覚で時間を決めてしまったのだ。
せめて午後五時にするべきだった。
今更恥ずかしがることも無いが、ここにいるということはやることはひとつしかないわけで、行為を見られるわけではないのに、すれ違う人の脳内には自然と映像が浮かんでいるのではないかと妄想していた。
自分がそうしてしまう人間だから他人もそうだろうと漠然と思っている。
人を好きになったことがないわけではない。
たまたま付き合った相手を好きになれなかっただけだ。
もっと上手い生き方が出来なかったのか。
十五分という半端な時間は美由の人生を振り返るのには充分だった。
所詮、十五分で振り返れてしまうのだ。
人並にツライ経験もしてきたつもりだった。
いじめられた経験。
友達と酷い喧嘩をした経験。
失恋した経験。
友達を失った経験。
理不尽に怒られた経験。
しかし、自分より遥かにツライ経験をしている人たちも見てきた。
会社でせっかく部長クラスになったところで過去の隙間は埋められない。
だから、美由は自分の人生を決して悲観はしない。
悲観はしないがつまらない人生を歩んできたと自覚をする。
人から見たら案外、面白いのかもしれないが、自分がつまらないと思えば、つまらないものだ。
目の前にあることをこなしてきた。
目の前のことだけで精一杯だった。
その結果の人生なのだ。
左手の腕時計を見ると待ち合わせの時間になっていた。
「あの、笠間さんですか?」
名前を呼ばれたので腕時計から顔を正面に向けると黒いジャケットに黒いジーンズに身を包んだ顔に幼さが残る背の高い若い女がいた。
平均身長の美由より十センチ以上高い。
金色の短い髪に少し黒が混じっていて、左耳にピアスをしていた。
自分とは別の世界から来たような雰囲気に美由は恐怖を感じた。
「レイです。初めまして」
その人は美由が受けた印象とは裏腹に笑顔で丁寧にお辞儀をした。
『レイ』
美由は店から聞いていた名前がレイであることを思い出し、慌てて挨拶を返した。
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
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