季節外れの春

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 ホテルに入るのも久しぶりだが、人と仕事、店員以外とで口を開くのも久しぶりだった。  傍から見たら歪な組み合わせだろう。  黒に身を包んだ背の高い若い女と四十の地味な女だ。 「あの……レイさん、いくつ?」 「二十歳です」 「あははー……。若いなー……」  いや、半端に年近い人よりは気まずくならなくて良いかも。  なんかもう二十歳下って別の生き物みたいなものだし。 「美由さんも若いじゃないですか」 「いやいや、私なんて……貴女に比べたら……」 『おばさんだし』の言葉が出なかった。  普通に歩いていたら親子に見えるかもしれない。  しかし、親子でこんなところに来るわけない。  それくらい美由とレイの年齢は離れていた。    ベッドが部屋のスペースをほとんど取っている部屋だ。  狭いので二人並んでベッドに座って上着を脱ぎだす。 「今日、少し暑かったですね。もうそろそろ冬だってのに」  レイの話し方は敬語とタメ口が混ぜてあり親しみやすかった。 「そうだね」  レイは着やせするタイプらしく脱ぐと意外にも肉付きが良かった。  肌に張りがあり、包み込まれたい欲求が湧いた。 「では、早速、シャワー浴びましょう。もちろん一緒に」 「え、ええ」  返事をしてもレイの二の腕を見続けてる美由に気付いたレイはいじわるく言った。 「意外と太いって思いました?」 「ううん。柔らかそうだなって」 「はは。同じじゃないですか」   美由は失礼なことをしたなと思いつつ、今の会話で緊張がほぐれた。  レイと自分の身体を比べると自分の身体の貧相さと年齢が際立つ。  他人の裸を見るのは久しぶりだ。  ましてや同性の裸を見るのはいつ以来だろう?   良く言えば痩せている。悪く言えば貧相で不健康。  昔から貧相な身体をしているがレイと並ぶと貧相な身体に磨きがかかる。 「お! ここ部屋は狭いけどお風呂は結構広いですね!」  レイの子どものようなはしゃぎ方にも年齢差を思い起こさせる。 「うん……そうだね」 「美由さん、細くて綺麗ですね」 「ただ貧相なだけだよ」 レイは何も言わずに美由の手を取り、鏡の前に美由を立たせた。 「レイさん?」 「美由さん、貴女は綺麗ですよ」  裸の自分と対面して美由は恥ずかしくて逃げたくなったが、レイが肩を掴んでいて動くことができなかった。  鏡から顔を背けようとするも、レイは美由の顎を左手で撫でながら鏡の方に向けさせる。 「目を逸らさないで」  右手の人差し指で美由の胸の間を指でなぞる。 「美由さん、貴方は綺麗です」  レイは大人びた声で美由に事実を教えるかのように言った。  美由はこのときにレイの子どもと大人の狭間のような雰囲気を持つ姿と行動に惹きつけられて行った。 「さて。身体の洗いっこしましょう?」  さっきのレイと変わって子どもっぽい高い声で言った。 「え、ああ。洗わなきゃね!」 『洗いっこ』という子どものような言い方に美由は数少ない母性を感じた。 「ここのボディーソープ、泡立ち悪いなー。いやスポンジが悪いのかな?」   湿気で少しずつ髪と肌が濡れていく。  スポンジにシャワーのお湯をかけて何度も揉んでいるレイの姿が実際より小柄に見えた。  立って見ているだけで良いのだろうかと思う反面、下手なことして嫌われたくないという気持ちが早くも芽生えていた。  レイが振り向いたときにあることに気付いた。  レイは陰毛が無かった。 「へへ。剃ってるんです。生えてる方が好みでした?」 「……」  レイの綺麗な割れ目はいけないものを見ている気分になってくる。 「そんなに見つめられたら恥ずかしいです」 「ごめんなさい……。綺麗だから見惚れちゃって」  レイはおどけて股間部分を手で隠しながら言ったが美由は自分の方が恥ずかしかった。    ――無自覚とは言え、相手のアソコをジッと見てたなんて。 「美由さん、シャワー浴びましょう」 「うん」  「私が洗いますので美由さんはリラックスして座ってください」  言われるままバスチェアに座り背中に温かいシャワーが流れていく。  シャワーの温かさが心地よくこれなら緊張も確かに和らぐ。 「背中ゴシゴシしますね」 
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