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ねえ、チトセ。
誰がチトセのことを呼んだの?
一緒にお酒だなんて、適当なこと言わないで。
十年なんて、遠いのに。すごくすごく遠いのに。
花びらが、一枚、二枚、足もとにまとわりついて飛んでいく。
ほろほろとこぼれる甘い香り。
「泣いてるの? 佐和」
ママが聞いた。
「泣いてない」あたしは答える。
「ねえママ。あたしもケータイほしいな」
きっとあたし、十年後には。
きっとすごく、美人になるのに。
チトセが、気安くさわれないくらい。
どこにいたって、チトセを呼びつけられるくらい。
ひらいた梅の花を、思い切りにらんだら、本当にそんな日が来そうな気がした。
(おしまい)
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