1、つぼみ

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開けっ放しのランドセルから飛び出た教科書を、チトセは勝手にめくって、「なつかしー」なんて言っている。 「何勝手に見てんのよ。バカ」 チトセの、横にスッと大きな目が、不満そうにあたしを見る。 「バカバカいうなよ。さっきからさあ」 「バカだからバカって言ったんだもん」 「このやろ。佐和(さわ)あー」 ほっぺたをつねられた。 かわいた指の熱さに、あたしの心臓が、ピョンってはねる。 でもそんなこと、バレたくないから「チトセって大人げないよね」と、わざとそっぽをむいて返す。 「生意気」 チトセはあたしのかみの毛をぐしゃぐしゃにした。 大きな手のひら、くちびるからこぼれる笑い声、あたしの耳もとがくすぐったい。 そうやってチトセを近くに感じていたら、着信音がピロンとなった。 チトセがケータイを、ポケットから取り出して言う。 「あっ、呼ばれた。じゃあな、佐和」 「うん、ばいばい」 チトセは単純でバカだから、あたしの胸の中が、いっぱいなのに気づかない。
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