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開けっ放しのランドセルから飛び出た教科書を、チトセは勝手にめくって、「なつかしー」なんて言っている。
「何勝手に見てんのよ。バカ」
チトセの、横にスッと大きな目が、不満そうにあたしを見る。
「バカバカいうなよ。さっきからさあ」
「バカだからバカって言ったんだもん」
「このやろ。佐和あー」
ほっぺたをつねられた。
かわいた指の熱さに、あたしの心臓が、ピョンってはねる。
でもそんなこと、バレたくないから「チトセって大人げないよね」と、わざとそっぽをむいて返す。
「生意気」
チトセはあたしのかみの毛をぐしゃぐしゃにした。
大きな手のひら、くちびるからこぼれる笑い声、あたしの耳もとがくすぐったい。
そうやってチトセを近くに感じていたら、着信音がピロンとなった。
チトセがケータイを、ポケットから取り出して言う。
「あっ、呼ばれた。じゃあな、佐和」
「うん、ばいばい」
チトセは単純でバカだから、あたしの胸の中が、いっぱいなのに気づかない。
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