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「ちーちゃん。ジュース飲んでいかない?」
ママが、家の中から出てきて、そう言った。
「ジュース? ですか?」
「梅のジュース。おいしいわよ」
チトセは、えんがわに座って、ママの出したジュースを飲んだ。
ノドボトケが、ごくごく動く。
「おいしい?」
チトセがうなずくと、ママは、満足そうに言った。
「このジュースね。この木に成った、青梅の実で作ったのよ。
たっぷりの角砂糖でつけこんで。
シロップを作って、ソーダで割ったの」
「へえ。すごい」
「ソーダじゃなくて、焼酎で割ったら、梅酒になるのよ」
ママはそう言うと、ひとりで笑った。
「ちーちゃん。秘密なんだけどね。
うちのパパったら、佐和がハタチになったら、一緒に梅酒を飲むんだあーって、楽しみにしているのよ」
「へえ。あと何年?」
「十年よ」
チトセが、あたしの頭の上に、ぽんと手のひらをのせた。
「いいなあ。佐和。愛されてるな。梅酒できたら俺も呼んで」
あたしは、グラスに口をつけて、ひといきにジュースを飲んだ。
ごくごくごくごく。
また、ケータイの音がピロンと鳴った。
チトセは目をふせて画面を見て、立ち上がった。
「もう俺、行かなきゃ。ごちそうさまでした」
「ばいばい」
「ばいばい」
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