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1、つぼみ
あたしの家の庭には、梅の木が植わっている。
白っぽいつぼみがふくらんで、もうすぐ花が咲きそうだ。
これは、あたしが生まれたときにパパが植えた「記念樹」なんだって。
あたしが十歳だから、この木も十歳、ということになる。
かきねのむこうから、チトセが顔をのぞかせて、あたしに声をかけてきた。
「なあ、これって桜の木?」
「梅だよ、梅。バカじゃない?」
ためいきをついて、あたしは答えた。
まだ花は咲いてないから、なんの木か分からなくても仕方ない。
だけどチトセはいちおう、お花屋さんの店員なのだ。
いくらアルバイトだからって、梅と桜の見わけもつかないようで、だいじょうぶなの?
あたしは、心の底から心配になる。
「そっかあ。梅かあ。なんか変だと思ったんだ」
チトセは、あっけらかんとそう言うと、かきねのすきまから、猫みたいにフラフラと、うちの庭に入ってきた。
今日みたいな日を、小春日和っていうのかな。
えんがわは、太陽にあっためられて、おしりも手のひらも、ポカポカだ。
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