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みんなが当たり前にできることは、私にとって当たり前ではなかったりする。
掃除一つとっても、私はとても苦戦する。みんなの頭の中を覗いてみたくなるほど、みんなは次々とやるべくことが分かっているように動く。私はといえば、ルンバのように壁までいって、壁があるから戻ってきて、そういうことを繰り返すうちにいつの間にか掃除が終わっている。
あっ、終わったんだと思えば、ゴミ捨てじゃんけんが始まっている。気後れする私を私が無理やり引っ張って、出してみれば、もちろん後出しになって、反則負けになった。
どうしていつも遅れてしまうのだろうか。そんな想いを引きずりながら、ゴミ捨て場までてくてくと歩いていく。
「ねぇ!」
私の肩は大きく震えた。びっくりした。
驚いているだろう顔を声のした方に向けた。
「あたしも一緒に行くよ」
相薗(アイゾノ)さん。心の中でそう呟いて、私はこくりと頷いた。
相薗さんは楽しそうに生きている。そんなことを言ったら、失礼なのかもしれないけど、私の全然靡かないスカートとは違って、相薗さんのスカートは踊るように揺れる。手だって大きく前後に振っている。
「ねぇ、なんでいっつも下ばかり向いているの?」
それは誰のことを言っているのだろうかと、顔を上げてみれば、相薗さんの視線にばったりと合う。
「わたし?」
喉に絡まる音は声となって外に放たれた。
あれ、と思った。
「声、きれいだね」
相薗さんは笑った。
光みたいな笑顔だった。私にとっては眩しすぎて思わず手を翳して、しまいには目を背けてしまいそうだった。
「そう」
私はそれだけを言って、てくてくと教室から遠く離れたゴミ捨て場まで歩く。
相薗さんは相変わらず、大きな動作を携えて進む。
ゴミ捨て場まで何も言葉を交わさなかった。
けれど、それほど嫌な感じはしなかった。
なぜだろう。
ゴミ捨て場に着いて、燃えるゴミと書かれた赤いゴミ箱と燃えないゴミと書かれた青いゴミ箱をひっくり返す。ドアの隙間から零れる光が舞ったほこりを映し出し、私はくしゃみをした。
再びゴミ箱をそれぞれ持ち上げたとき、相薗さんは息を吸った。私はほこりまで吸ってしまわないか心配したが、大丈夫なようだった。
「あたしって変なのかな?」
光っていた相薗さんは途端に暗くなり、表情が影を作る。
私は首を傾げた。
「そんなことないと思うよ」
世界に飛び出てしまった言葉はあまりにも弱かった。こんな言葉を生み出してしまったことに後悔し、でもどうしていいのか分からず、とりあえず謝ろうと顔を上げた。
相薗さんは笑っていた。
でも、さっきのような輝きはなく、どこか泣いているようにも見えた。
「ありがとう」
それだけを残して、相薗さんは学校に来なくなった。
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