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6
――何がきっかけで歌い手になったんですか?
カメラがこちらを向いた。
前のめりになるリポーターは興奮しているようだった。
私がいつから人に認知されるようになって、興味を持ってもらえるようになって、無色透明じゃなくても良くなったのか分からない。
遠くから歓声が聞こえた。
内側からせり上がってくる熱いものを押さえるようにして、息を吸った。
「きっかけは私の大切な人たちがいなくなったことです」
ずっと蓋をしていた。
真正面からぶつかるのが怖かった。
この世界は正しいものが全てではないと知っていたから。
無色透明で、どんな色にもなれるように、誰も傷つけないように、そして傷つかないように。そんなことばかりを考えて、好きだった言葉を捨てて、大事ではないものばかりを大事にしようとしていた。
私は言葉が一番大事なんだ。
やっと、そのことに気がついた。
――そろそろ。
耳打ちされる。
手が冷たくて、足が震える。
いつも通りだ。
小さく息を吐く。
目指すべき方に視線を向けた。
思わず、手を翳してしまうほどの眩い光が放たれている。
私は吸い込まれるようにして、そちらに歩みだす。
こつこつ。
足音が律動を奏でる。
名前がコールされる。
誰かの声と誰かの声が絡み合って、大きな歓声となる。
ステージに立つ。
私は無色透明ではなくなった。
あらゆる色が私に塗られる。
この瞬間、私は生きていることを許させる。
だって、ここが私の居場所なのだから。
息を吸った。
<了>
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