ペラルゴニウムの返礼

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 目が覚めて、カーテンの隙間から朝日が差し込んできた時、エドガー・サーリマンは目覚ましよりも早く起き上がった。  凍りついた肉をほぐすように、ベッドの上で固まった老体を弛緩させ、その場で深呼吸をする。ふとベッドの横を見て、エドガーは自分が眠気に耐えきれず、仮眠を取ろうとしてそのまま寝入ってしまっていたことに気づく。昨夜の作業を半端なまま残してしまっていた。隠すように机にシーツをかけると、廊下へと続く扉を開ける。  耳を澄ましても、階段の下から物音は聞こえない。妻のメアリ・サーリマンが病床に伏せてから一年近く、一階で生活音を立てるのはエドガー一人だけだった。  隣の部屋へ顔を覗かせる。 「おーい、今朝の調子はどうだね。何か食べるかい?」  ベッドの上で毛布に包まっていたメアリは、口を開くのも億劫という風に、虫を追い払うかのように手を振った。そっと扉を閉じると、エドガーは静かに一階へと降りていく。  硬くなりかけたパンと、冷えたままの牛乳を出して、惰性で咀嚼し飲み込むと、エドガーは寝巻き姿のまま庭へ出て、敷地の半分以上を占領している温室の中へと入っていった。  扉を開けると、熱帯地域とかいう風土に似せて調整された気温と湿度が、肌寒さを感じていたエドガーの体を舐めるように包み込んでいく。  外装と同じビニール製の扉を挟んで、右側に花壇が、左側と正面奥には、植木鉢を置くための三段式の棚がある。  棚の一番上は日差しをもろに受ける為、定期的に植木鉢を段ごとに下へずらし、一番下の鉢を最上段へ置き直す。  指で軽く花弁に触れ、特に変化がないことを確認する。手つきには世話をする者特有の義務感と、新雪を手のひらに乗せるような慎重さが、そしてシワと白髪に包まれた顔には、世話を楽しみ、慈しむ癒された表情が見えていた。  そのまま奥の棚にも手を伸ばし、同じように鉢を入れ替える。そして霧吹きで一つ一つの鉢へ、土を湿らすよう丁寧に水をやった。  いくつかの鉢や花壇に肥料を蒔くと、それだけでは不安なのか、軽く土と混ぜ、より根の近くに肥料が行き渡るようにした。  もうすぐ春が来る。だが温室の中なら、虫が出ることはないだろう。エドガーは季節外れの汗を拭いながら、透明な天井から降り注ぐ太陽を、目を細めて見つめた。
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