ペラルゴニウムの返礼

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 エドガーは、花が嫌いだった  元々大して意識したことが無いのに加えて、この数年で突如発症した重度の花粉症が、より彼にとっての草花を忌々しいものへと変えていた。  だからメアリが庭でガーデニングをしたいと言い出した時、珍しく、エドガーは力強い反対の意を示した。  だが彼女は憮然とした表情で、 「別にいいじゃありませんか。貴方が大好きな仕事の合間にペンチや接着剤片手に口笛を吹きながら休憩している間、私は貴方が昨夜脱ぎ捨てたシャツや靴下やパンツを集めて洗っています。貴方が街の美味しいレストランで昼食を頂いてる頃、私は昨日の残りの固いパンを、肉の欠片と野菜の切れ端しか浮いてないようなスープに浸してモソモソとリスみたいに齧っています。貴方は一度でも、私が貴方より先に眠っているところを見たことがありますか? 一度でも、私より先に目を覚ましたことがありますか? 五十年間身を粉にして働いた妻のたった一つの我儘すら聞けないというのですか」  と、五十年の中で幾度となく使った文句を口にし、まくしたてるような口調の速さで、エドガーを黙らせた。  かくして、花壇といくつかの植木鉢が置かれ、小さく、鮮やかな花が、サーリマン家の決して大きくない庭を彩った。  その時点から、エドガーは庭に顔を出さないようになった。
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