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ある朝、エドガーは、いつものように起きると、鼻歌交じりに温室の中で世話に勤しんでいた。
ふと、
「……はて、なんだ?」
視界に妙なものが目に入った気がした。花と葉に包まれた花壇の中、その奥に、見覚えのないものがある。茎を折らぬよう気を付けながら手でどけると、そこには小さな蕾があった。
葉の形には見覚えがある。花壇にあるものと同じ緩やかな三つ葉型。蕾の先端から洩れている薄紅色の花弁も一致している。
エドガーは、不審そうに目を潜ませた。
「……蕾? 馬鹿な……」
記憶をたどるが、やはり覚えがない。エドガーは気味悪そうに手を伸ばし、蕾を携えた茎を土から引き抜くと、隅に置かれたゴミ袋へと放り捨てた。
それから念のため手を洗い、朝食を用意して、メアリの所へ食事を運びに行く。その間も、蕾のことをずっと考え、不気味な言い知れない不安で心臓を高鳴らせていた。
「今日の食事も随分と遅いですね。花の世話をしていただけるのは結構ですが、私より花を優先されるのは、それはそれで不愉快です。それとも、私のようなおいぼれより、瑞々しい花の世話の方が楽しいですか? まぁ確かに、町娘にうつつを抜かすよりはマシでしょうけどね。それと、一階の掃除はちゃんとしていますか? 箒を振るう音が以前より煩雑になったように聞こえますが。家の掃除も貴方がやるよりほかないのだという事は、ちゃんと理解していますね?」
だが、メアリの不機嫌な嫌味が始まると、それらはすぐに、彼女への不満や苛立ちで掻き消されてしまった。どれもこれもお前のためにやっていることなのに、礼の一つもないのか、と。
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