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放課後になっても当然の如く蕾が開くことはなかった。 分かってはいるのだ。 一華の意中の相手は生真のため蕾が開くことはないと。 生真のあの嬉しそうな顔を思い出す度に辛い記憶が蘇る。
流石に一緒に帰れる気にはなれず一人で教室を出ようとした。
「あ、咲人待てって!」
「・・・何だよ」
「まだ帰るな。 俺の支度が終わっていないから」
帰る支度をしている生真にさり気なく尋ねてみた。
「・・・なぁ。 どうして生真は、俺の気持ちを知っておきながら・・・」
八つ当たりに近いということは分かっている。 一華が生真のことを好きなら、結局自分が選ばれることはないのだ。 そんな気持ちからの少々歯切れの悪い言葉に、生真が思い出したかのように言った。
「あー、悪い! ちょっとトイレー」
真面目な話をしようとしているところだったため、イライラしてしまう。
―――何なんだよ・・・。
―――そのタイミング、絶対にわざとだろ。
咲人の質問に答えたくなかったからトイレへと向かった。 そう捉えた。 このまま帰ってもよかったのだが、待ち時間にバッグを下ろし再度中を見た。 何度見ても蕾が開くわけないのに見てしまうのだ。
―――・・・これが一華さんの答えか。
―――こんなもの、買うんじゃなかったな。
そう思ったその時だった。
「咲人くん」
一華に声をかけられた。
「・・・何? 俺は忙しいから手短によろしく」
折角一華と話せる機会だが、今は話したくない気持ちの方が勝っていた。
―――どうしてこういう時、俺は素直になれないんだよ。
顔を背け言葉を待っていると一華が何かを差し出してきた。
「これを咲人くんに」
「・・・いらない」
どうせ義理チョコなのは分かっている。 生真が受け取ったものとは違うだろうラッピングを改めて確認するのが嫌だった。 目をギュッと瞑っていることを一華に不審に思われてしまうかもしれない。
それも仕方ないと思っていた。
「どうしても受け取ってもらえない?」
「義理チョコなんだろ? 一華さんだけからは、義理チョコなんて渡されたくなかった」
「義理って・・・。 うん? その鉢植えは?」
一華は咲人のバッグから見えていた鉢に気が付いた。 咲人はそれを取り出す。
「あぁ、これか。 あげるよ、もういらないし」
「え、本当に!?」
鉢植えを差し出すと一華は嬉しそうに受け取った。 すると一華が鉢植えを手にした瞬間、花が開いたのだ。
―――・・・え?
「うわぁ、凄く綺麗! 急に花が咲くなんて驚いた。 本当にもらっちゃってもいいの?」
―――どういうこと?
―――え、これってつまり・・・。
『花が開いたら絶対に告白をしろよ? この花を紹介してやったんだから、俺と約束だ』
一華が持ち主となったことで、生真との両想いが証明された可能性はある。 だが生真の言葉が頭に引っかかり、諦めるという言葉を思考から追いやった。
「・・・一華さんのことが好きです」
「え?」
振られるにしても告白はして整理をつけたいという気持ちもあった。 正直な話、もしかしたらと期待をかける気持ちもあった。
「俺と付き合ってくれませんか?」
そう言うと一華は開いた花と同じくらい綺麗に笑っていた。
「はい。 喜んで」
咲人からしてみれば、振られる可能性の方が高いと思っていたのだ。 だが一華の持っているチョコを見て驚くことになる。
生真に渡していたはずのチョコレートと全く同じラッピングがされていたのだから。
「え、待って。 本当に?」
「受け入れちゃ駄目だった?」
「いやだって、一華さんは生真のことが好きなんでしょ?」
「生真くん? どうして?」
「だって生真はチョコが好きかって聞いてきたし、昼休みだって生真にチョコを渡していたし」
「・・・うん?」
思い出すように一華が言った。
「あぁ、チョコを咲人くんに渡す勇気がなくて、生真くんを介して渡してもらおうかなって思っていたの」
「でも生真は喜んでいただろ?」
「うん、喜んでた。 『それなら絶対に自ら咲人くんに渡した方がいい! きっと喜ぶから!』って言われてチョコを返されたけどね」
「じゃあ、生真のチョコの好みを聞いたのは・・・」
「流石に一方的に頼むのはあれだから、義理チョコを生真くん用に作ろうとしたの」
「そういうことだったのか・・・」
「それで? 私のチョコは受け取ってくれる?」
「もちろん!」
どうやら鉢に触れた二人が両想いだと花は開くようだった。 生真は廊下で二人のことを温かく見守っていた。
―――生真、疑ってごめん。
―――そしてありがとう。
―――今度帰りにマックでも奢ってあげないといけないな。
この後一華は生真に義理チョコを渡し、三人で帰ることになった。 そこで驚きの事実が判明する。 一華は咲人と同じ高校を受験することに変えていたのだ。
告白も何もなかった時点での決定に一華の覚悟と熱意を感じた。 普通なら少々重いとも思えるそれが、咲人は本当に嬉しかった。
生真は仲間外れになった感で不満を露にしていたが、それ以上に一華と同じ高校を受験できることで幸せな日々を送れることを嬉しく思っていた。
-END-
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