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片想いの蕾
一月一日、元旦であり冬休みでもある中学校三年生の咲人(サキト)は、友達の生真(イクマ)と一緒に初詣へと来ていた。
「互いの受験はもう安泰だから、何も心配することはないな」
「あぁ。 でも気は抜かない」
互いの志望高校における模試の結果はA判定。 成績の上では余裕があり、心配することはなかった。
もっとも思いがけないことが起きる可能性はあるため、念のためにとお小遣いから奮発した千円札を賽銭箱に滑り込ませ手を合わす。
「何を願った?」
「普通に受験のことだけど・・・」
「他にもあるだろー?」
楽し気に生真が聞いてくる。
「他って・・・」
「一華さんのことは願わなかったのか?」
一華(イチカ) それは咲人の好きなクラスの女子だった。 分かりやすいように名前を出され顔が赤くなってしまう。
「まだ一華さんに告白はしないのかー?」
「しないんじゃなくて、できないんだよ・・・」
一華のことは中学校一年生の頃からずっと好きだった。 未だに想いを告げていないのは、振られるのが怖くてできないためだ。 このような調子を見続けてきている生真はもどかしく思ったのだろう。
「告白をする勇気がないなら、アタックだけして一華さんからの告白を待てば?」
「それは絶対に嫌だ! 告白をするなら必ず俺からがいい!!」
それだけは譲れなかった。
「変なところで意地を張るなよ。 俺たちが卒業するのはいつだ?」
「・・・三月」
「そうだろ? あと三ヶ月もない。 中学を卒業したら、もう一華さんとは離れ離れになるんだぞ?」
「・・・分かってる」
咲人と生真も別の高校だが一華も違うのだ。 チャンスは残りこの三ヶ月間しかなかった。
―――俺と一華さんの関係はただのクラスメイト。
―――俺が常に一華さんを目で追っているから、たまに目が合うことがある。
―――接点はそのくらいだ。
―――一華さんとはまともに話したことがない・・・。
アタックするならもう行動を起こさないと遅い。 既に好きな人がいるのかもしれない。 もう手遅れかもしれないが諦める気はなかった。 だがそれでも勇気を出せずにいる咲人に生真は言った。
「仕方ねぇなぁ。 いいところへ連れていってやるよ」
「いいところ?」
神社を出ると変わった場所へと連れていかれた。 街外れの寂れた一角、普通来ることのないようなその場所に骨董品屋のような雑貨屋があった。
見たことのない色々な品が置かれていて、どこか年季を感じさせる。
―――何だこれ、何に使うんだ・・・?
カエルの置物なのだが、何故か腕が伸びる仕様になっている。 変わったものがあり過ぎて興味が惹かれた。
「あ、あった。 これだよこれ、咲人ー!」
あるコーナーで生真が手招きをしていた。
「はい、どうぞ。 これを買ってきて」
「植木鉢?」
渡されたのは一つの小さな植木鉢で、青々と茂る葉に、蕾が付いている。 花に詳しくない咲人ではあるが、見たことのない植物だった。
「これは何の花?」
「花の名前なんてないよ。 強いて言うなら不思議な花?」
「不思議な花・・・」
「好きな人と両想いになると花が開くんだってさ」
「え、マジで!?」
にわかには信じ難いが、自分をからかっているようには思えなった。
「あぁ。 花が開いたら両想いだという証拠だから、告白をする勇気が出るんじゃないか?」
「確かに出るかも・・・。 よし、俺はこれを買う!」
「花が開いたら絶対に告白しろよ? この花を紹介してやったんだから、俺との約束だ」
「分かった。 ありがとう!」
早速植木鉢を持ってレジへと向かった。
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