7人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから一ヶ月が経った二月の昼休み。 焦る気持ちばかりを募らせ咲人は溜め息をついていた。
―――何にも進展がない・・・。
―――いや、アプローチをしない俺も悪いんだけど・・・。
咲人は毎日期待をかけながら学校へ鉢を持ってきていた。 幸い小さなもののためバッグの中で邪魔になることもない。
もちろん両想いになれば花開くという言葉を根っから信じているわけではないが、そうなれば勇気の一押しをもらえると思っていた。
―――そりゃあ、これで花が咲くわけがないよなー。
―――何もせずに両想いだなんて、夢のまた夢か・・・。
蕾が開かないために行動に移せなかったというのもあるが、結局自分から動くことはなかった。 生真も勧めた手前なのか、無理にアタックさせようともしない。
ぼんやりとバッグの中にある花の蕾を見ながらそのようなことを考える。 突いてみても花が開く気配はなかった。
―――この花って本当に咲くのか?
水は普通にやっているが、鞄の中に入れることが多いため日光が足りないのかもしれない。 ただ説明書きではそれでも構わないと書かれていたのだ。
もしかして不良品、そんな風に怪しんでいたその時だった。
「咲人くん」
「ん? ・・・い、一華さん!?」
突然意中の相手に話しかけられ慌ててバッグを閉めた。 挙動不審になってしまい咄嗟にその場に立ち上がってしまう。
―――話しかけられるなんて、思ってもみなかった・・・。
―――ど、どうしよう・・・ッ!
嬉し過ぎて心臓がはち切れそうだ。 その様子を見て一華は首を傾げている。
「咲人くん、どうしたの?」
「あぁ、いや、何でもない」
「そう・・・」
「それで? 一華さんは俺に何か?」
震える声で尋ねかけた。 すると一華は顔を少し赤くしながら言った。
「うん・・・。 えっと、咲人くんはチョコ好きかな、って・・・」
「チョ、チョコ!?」
その単語で思い浮かぶのはバレンタインだ。 意識してなかったがバレンタインデーが近い。 チョコレートのことを聞かれれば、期待が自然と膨らんでしまう。
「も、もちろん! チョコは好きだよ!」
「そっか。 よかった」
そう答えると一華は嬉しそうに笑った。 その笑顔に胸を打たれる。
―――期待、してもいいのか・・・!?
―――俺に聞いたということは、そういうことだよな?
―――俺にチョコを渡してくれる、っていう・・・。
今からでも緊張が止まらなかった。 そわそわしていると一華は申し訳なさそうに言葉を続けた。
「い、生真くんはどうかな?」
「え? 生真?」
「うん。 生真くんは、チョコ好き・・・?」
その友達の名を聞いて弾んでいた気持ちが一気に萎んだ。
―――・・・どうしてここで、生真の名前が出てくるんだよ。
「・・・咲人、くん?」
折角一華に話しかけられたのに悪印象を与えないため答えることにした。
「あー、うん、好きだと思うよ」
「本当?」
「あぁ。 でもホワイトチョコの方が好きだったかな」
「そっか。 教えてくれてありがとう」
そう言うと一華は去っていった。 ホワイトチョコが好きという話は本当だ。 嘘を言ったわけではない。
「・・・はぁ」
思わず溜め息が漏れる。
―――・・・どっちに渡す予定なんだよ。
―――期待していた俺が悪いのか?
さり気なくバッグの中を見た。 蕾は寂し気に閉じたままで、花はまだ咲いていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!