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バレンタイン当日、結局あれ以来一華とまともに話す機会はなかった。 生真にもチョコレートのことを聞かれたことは話していない。 何となく言えなかったのだ。
―――ついに今日という日が来てしまったのか・・・。
―――昨日は緊張で一睡もできなかった。
正直複雑な気分で、自分がチョコレートをもらえなかった場合、一華は生真に渡したということになる。
―――いや、俺は期待なんかしていないから。
―――本当に、全然。
―――これっぽっちもしていない。
そう自分に思い込ませる。 そうでないと少しでも期待してしまう自分が出てくるのだ。
―――でももしだよ、もしチョコを渡される時に告白をされたらどうする?
―――即返事をしたら流石に気持ち悪いかな・・・。
―――でもそのチャンスは逃したくないし・・・。
―――あぁ、もうだから期待はすんなって!
―――チョコをもらわずに今日が終わったら、絶対に後悔するんだから・・・!
だが万が一のこともあるためずっと蕾を見つめていた。 花が開けばチョコを渡してくれる可能性が高いと思っている。 未だ全く咲く気配を見せないが、願いを込めて蕾に視線を送る。
―――・・・まぁ、そんなに都合よく開くわけがないよな。
昼休みになっても花に進展はなく咲人にも進展がない。 周りを見ているとこっそりとチョコを受け取っているクラスメイトの姿が散見する。
それが余計焦りに繋がってしまうが、咲人からできることなんて当日の今何もないのだ。
―――あー、もう蕾を眺めているのは止めた。
―――生真のところにでも行こう・・・。
一人でジッとしているのがもどかしく、生真のもとへ行こうと席を立った。
「おーい、いく・・・」
生真を呼ぼうとしたところで止まった。
―――・・・え?
―――どうして生真と一華さんが?
生真の方を見ると一華と二人で話をしていたのだ。 二人はそのまま教室を一緒に出ていった。
―――・・・やっぱり、生真狙いだったのか?
真相が気になるためこっそりと後を付けた。 すると一華が生真に何かを差し出していた。
―――一体何を渡しているんだ・・・?
そうは思いつつも正直な話嫌な予想はしてしまっていた。 バレンタインデーで女子から男子に渡すものなんて一つしかない。
ただそんな想像が外れていると一縷の望みをかけ見えるところまで少し身を出してみる。 だが残念ながら差し出したものは綺麗にラッピングされた小さな箱だった。
―――・・・あれは、きっとチョコだよな。
―――あの綺麗さは絶対に本命のチョコ。
―――義理でそこまで綺麗にはしない。
悟って深く溜め息をついた。 そもそも義理なら隠れて渡す必要なんてないのだ。
―――あの時、俺から先にチョコは好きかって聞いたのは、俺がショックを受けないためのカモフラージュだったのか。
―――・・・最初から本命は生真だったんだな。
生真の様子を見てみる。 箱を見て嬉しそうに笑っていた。
「ッ・・・」
それを見て居ても立っても居られず教室へ走って戻った。
―――俺の好きな人は、俺の親友のことが好きだった。
―――こんなに辛いことがあるか・・・?
急いで蕾を見てみるが、咲く気配は相変わらずなかった。
―――生真も生真だよ。
―――どうして俺の気持ちを知ってんのに、あんなに素直に喜ぶことができる?
誰かに好かれて嬉しくない人間はいない。 それは咲人の想いとは無関係に当然のことだ。 怒りの先を生真へ向けてしまった自分に腹が立った。
―――・・・いや、俺の努力不足だったんだ。
―――好かれようと努力しなかった俺が悪い。
―――生真は意気地なしの俺を応援してくれる、優しい奴だった。
―――だから生真は悪くない。
だが生真が箱を見て嬉しそうにしているあの笑顔は忘れられなかった。
―――もう俺は、生真にどんな顔をして接したらいいんだよ。
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