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4月13日(月) 河内 花子
ぐぅううぅ〜
あかん、そろそろ限界や…
さっきからおなかの音が鳴り止まない。
朝食を抜いてきたのが仇となった。
4時間目は始まったばかりだというのに、はなこにはノートをとる気力がほとんど残っていなかった。
学校生活、なめとった…。
はなこは今朝ギリギリまで寝ていたことを後悔した。明日からはちゃんと早起きして、たくさん食べよう。
ぐぅうとなるお腹に力を込めた。
そして、最後の力を振り絞り、ノートの新しいページを開くと、ひたすら、色んな種類のパンの絵を書きなぐった。
昼休み!!!
はなこは待ってましたと、勢いよく菓子パンの袋を開けた。ふわりと甘い香りが漂う。大好物のメロンパンにかぶりつき、ふわふわの幸せに浸る。
ふと、女子のきゃっきゃっとはしゃぐ声が耳に入った。
なにごとや?
新しいパンを開けながら、声のする方をちらっと見た。
…ポトっ
手からあんぱんが滑り落ちた。
生まれてかれこれ16年、未だかつて見たことのない美男子が、顔を赤らめてこちらに向かって歩いている。
え? えっ?? ええっ???!
ホクロひとつないすべすべの白い肌、クリクリとした目、スッとした鼻、背はスラリと高いけど細くはなく、身体には程よく筋肉がついている。精悍な顔立ちをしており、王子様を体現したかのようなそのイケメンは、真っ直ぐにこちらを見据え、向かってくる。
うっとりと見惚れるはなこの脳内では、おそらくその次に起こるであろう出来事が再生されいた。
"探したよ、花子。"
絶世の美男子は、はなこの前に膝をつくと、手をぎゅっと握りしめる。
ちょっ!!
ちょっと待って、あんた誰や!
"好きだ。"
そういってキスを迫る。
は?出会って間もないのに、そんな…!
"もう我慢できない。"
ぎゅっと力強く抱きしめられ、、、、
あぁああぁぁあああ
てく てく てく てく。。。
イケメンは、はなこの横をスッと通り過ぎると、後ろの席に座る女の子に話しかけていた。
…は
あんぐり口を開けたまま、はなこは硬直した。
なあんや
あまりのグッドルッキングガイっぷりに、あらぬ妄想を繰り広げてしまった。我に返ったはなこは、ため息混じりに、紙パックの牛乳をちゅうぅと飲んだ。
「一緒に食べませんか?」
どうやら後ろに座る子とふたりでご飯を食べるらしい。
「自分で作ってるんですか?」
…
「ありがとう」
…
「じゃあ、ひと口ちょうだい。」
…
「ふふふ。ただ卵を炒めただけなの、なにも味付けせずに。」
………………
はなこは悶えた。
彼らの目の前に座っているので、嫌でも会話が聞こえてくる。
なんやこいつら!
学校でお互いのお弁当'あーん'すな!
しかも、何?!この聞いてるこっちが恥ずかしくなる会話は!!!!!
ってかなんで卵の味付けしやんの?!
あかん、ツッコミどころが多すぎる!
頭を抱えてうなだれた。
さっさと立ち退きたいけれど、高校生活は始まったばかりで、他クラスに友だちはいない。ましてや、このバカップルのせいで、せっかくの貴重な昼休みに当てもなく学校中をブラブラ歩きまわるなんて、絶対に嫌だ。
くっそおおお〜!
登校前コンビニに立ち寄って買ったパンをすべて食べ終えると、机に伏せて、寝たふりをすることにした。
「すっごく美味しい!」
「それは良かったです。」
うゔゔゔうぅぅがあぁぁあ!!!
早くチャイム鳴れえええぇええ!
さっさと消えてくれええぇぇぇ!
こっそり耳を塞ぎながら、はなこはこころの中で吠えた。
「…ちさ…」「…ちさん」
う…?
むにゃり なんだかとても気持ちが良い。
あれ、あのバカップルどうなった…?
ウチ、いま、何をして…
なにやら頭がぼーっとする。
「河内さん!!!」
怒った声にハッとして
「うううあっ、はっ、はいぃっ!」
ガタガタンッ!と席を立つはなこ。
せや、食べたあと、ほんまに寝てしまったんや…
「入学してから1番最初の授業で寝てる子、あなたがはじめてです。」
英語担当教諭、もとい担任の藤波先生が、呆れ顔ではなこの前に立っていた。
あちゃー、やってもうた
いつの間にかほんまに寝とった。。。
よだれを手で拭いながら、
「す、すみません…」とうつむいた。
不本意に注目の的となり、こっぱずかしい気持ちでいっぱいだった。
「ふふ」
後ろの席から微かな笑い声が聞こえた。
ムッ
はなこはキッと後ろを睨む。
なに笑ってんねん!
ちょっとはあんたのせいでもあるねんで!
……いや、寝てもうたウチが完全に悪いねんけどな…。
「はい、じゃあ授業を始めます!エブィワン、シッダゥンプリーズ!」
席に着き、だれにも聞こえないため息をつくと、はなこはノートを開けた。お気に入りのシャーペンをカチカチっと鳴らし、消しゴムを定位置にセットする。
それからひたすら、色んな種類のパンの絵を描きまくった。
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