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そうだなあ、昔話といえばありきたりだが、カカイ沼も大昔はただの沼だったのさ。鬱蒼とした森に包まれた暗い沼。知ってるって? さすが研究しているだけのことはあるね。
まあカカイ村、と言うくらいだから沼の言い伝えが出来るより前には近くに集落さえ無かった。カカイ沼、と呼ばれ始めて出来た観光村のようなところだったからね。おっと、そこに鹿の糞があるよ。気づかなかった? もう暗いからね。ライトはあるかい? 私は夜目が効くからいらないけどね。あっはっは。冗談さ、何度も通っているから覚えちまっただけだい。
ええと、それでなんだっけ。そうそうカカイ沼のある山の麓の村には一人の少年がいたのさ。花咲か爺さんって童話知ってるかい。うん、その末裔だね。しかし血が薄れていくにつれて花咲かせの術を持つ人間が出てこなくなったんだと。親戚中で花咲かせの術を持って生まれたのは少年ただ一人だった。親族の星、村の星だと崇められてね。思い詰めた少年は親の目を盗んで家を飛び出した。
左に漆があるよ、かぶれなさんな。うん、それで沼に、後のカカイ沼にたどり着いた。沼なんて沈んだら子どもも大人もひとたまりも無いだろう? 村の大人たちは沼はみーんな人を食っちまうぞって言ってたのさ。
こんな感じで夕方以降は辺りも真っ暗。キラリと光った獣の瞳に少年は動転して、月の映る沼へ飛び込んじまった。
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