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ちょっと脚色が過ぎたかな。さすがに驚かないね、あんた。言い伝えによくあるバッドエンドがお好みかい? 申し訳ないが続きがあってね。少年は沈んだはずの沼から飛び出したのさ。
よいしょっ。あと少しだ。ほれ、掴まれ。んんっと。ほうら、あそこだ。見えるかい? 今日は満月だからよく見えるだろう。真上に月がくるからすっぽり照らされるのさ。
で、なぜ少年浮き上がってきたのか。花咲かせの術を持っていたからさ。沼へ沈む花なんてめったにないだろう? そういうことさ。少年はほっとしたと同時に絶望した。
人喰い沼に喰ってもらえないのなら、自分は人ならざるものなのだと。そしたら満月が言ったのさ。「その沼は年中暗くて見飽きてしまった。花咲か坊ちゃん、どうか花を咲かせておくれ」ってな。それで少年、頑張ったんだが全然咲かない。普段より祈りを込めて灰を撒いても咲く気配がない。満月は呆れて遠くへ行ってしまった。
それから少年は何度も何度も灰を撒いた。そのうち持ってきた灰も尽きてしまって途方に暮れていたんだそうだ。そしたらひとり、青年がきた。死に場所を探してうろついているうちに少年のいる沼へたどり着いたと。どうして死にたいのか、少年が問うと「絶望した」と言ったそうだ。その青年もまた、秘めた術を持っていた。自身が木となり花を咲かせる術だった。
疲れるだろう、そこの石に腰かけるといい。私も座ろう、ふう。
少年は「僕は死ねない、人ではないから沼が絶望を受け入れてくれなかった」と青年に伝えると、青年は「僕も死ねない、植物ではないから土に受け入れてもらえなかった」と言った。
二人は月に問うた。
「どうしたら我々は自然に受け入れてもらえるのでしょう」
そうしたら月が「愛を知りなさい」と答えた。
二人は愛を知らなかった。だから満月の望む花は咲かなかったし、青年は木になれなかったと。
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