水の音

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 茜はだから、親元を離れてすぐに結婚した形になる。家事の方法を教わる機会は茜にはなかった。もちろん、両親なきあと、引き取り当てとなった親戚はいたが、茜は高校卒業後、なかば駆け落ちのごとく、新婚生活を始めたので、あまり頼りたくもなかったのだろう。母はつまりは独学で様々なことを身に付けている。父の話では、母は図書館に通っては、何ページもコピーをとって帰ってきたという。清美の記憶でも、個人の部屋の確保できない狭い賃貸暮らしのなかで、母のスペースにはファイルが何冊も置かれていたことが思い当たる。母の手は水仕事に加えて、その勤勉さによって、紙にも水分を奪われていたのだろう。わたしは中学のころ友達から手荒れを指摘されて、母の遺伝のせいだ、と悪態をついて返したことがあったりもした。母は自分を省みない。そういう人だ。そう捉えないと周りにいる身として辛くなることがあった。わたしが大学に入り、一人暮らしを始めたがった理由はそこにもあったかもしれない。けれど、手に痒みを感じながら思ったのは、母もこうして、自分を犠牲にしていたのかもしれない、やっと手の届くところに母がいる、という言い表しづらい気持ちだった。
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