五分咲き

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五分咲き

(何だこれ……) 万が一にも、それが生きていれば寝覚めが悪い。生死を確かめようと、その紫じみた握り拳にそっと触れると、剥き出しの岩のように恐ろしく乱暴で硬く、そして氷のように火傷するほど冷たかった。 (死んでるんだーー) そう感じた瞬間、その場の混沌と静寂を切り裂くような大声が耳元に急に届いた。 「許してくれ!!悪かった!!悪かったよぉ!!」 声の主は一人の青年。 興奮した様子で砂利を泣き狂いながら走り回る。絡まれては困ると咄嗟に屈んで身を隠したが、青年は周囲に意識が向いていない。 その青年が暴れてくれたおかげで辺りの霞が少し晴れ、見晴らしが僅かに良くなった。 そして、ここには土中から出る握り拳が一つではなく無数にあることと、それにすがり付く様々な人間がいたことに気づく。 ある者は泣き喚きながら握り拳に詫び、 ある者は絶望を浮かべた顔と掠れ声で握り拳に寄りかかり、 ある者は教祖を崇めるかの如く握り拳に平身低頭していた。 先程の青年は、そんな人々を空き缶のように蹴散らしながら激昂を撒き散らし、終には寸前に発していた謝罪の言葉とは打って変わってその狂気と怒りを土中の握り拳に向けて出し始めた。 「あ~~!!もう!!何で!俺が!いつまでも!お前らなんかに!!謝んなきゃ!ダメなんだよっ!!」 青年は言葉の限り罵倒した。 それだけでは足りず、その握り拳を体力の続く限り何度も殴打した。何度も、何度も。 そうして青年が力尽きて座り込んだ時。 土中の握り拳は見計らったようにニョロニョロと勢いよく地上に伸び出し、青年の悲鳴が完全に消えるまで、ひたすらに殴打し返し続けた。何度も、何度も。 念仏のような平坦な声たちに、握り拳が青年を殴打する音が加わっただけで元の状況に戻った場。 (もうダメだ……) そう絶望と諦念に襲われた時、ふと自分のすぐ足元に寄り添うように生える握り拳を見つけた。
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