1人が本棚に入れています
本棚に追加
お父さんがうしろにいる。お父さんにだけは、見られたくなかった。だって、本当は悲しませたくなかったから。
「…なぁ、都羽。お母さんと夢の話したんだろ?」
お父さんの声は震えていたけど、優しい口調だ。わたしが頷くと、お父さんはわたしの腕から手を離した。わたしは、その腕をゆっくり下に下ろして、ナイフを手放した。ナイフは、音を立てて地面に落ちていった。
「なんて言ってた?」
「え?」
お父さんの問いの意味がわからなくて、わたしは振り返っていた。しゃがんでいるお父さんと目が合った。怒っていないみたいだ。久しぶりにお父さんと目を合わせた気がする。
「やっと、こっちむいてくれた」
お父さんの言葉に、わたしは我に返ってしゃがみこんだ。
「……お母さんの夢はお父さん聞いたことなかったから、都羽なら聞いたんじゃないかって思って」
しゃがみこんだままのわたしに、お父さんは今度は微笑んで言った。
「……空を飛びたいって、お母さん言ってた」
「そうか」
わたしが力を振り絞るように言うと、お父さんはわたしが被っていた帽子を取って優しく頭をなでた。そして、目の前に一つのストラップを差し出した。わたしが顔をあげてみると、それは透明なたまごの形のストラップだった。
「これって、お母さんが買ってくれた…。なくしたと思ったのに」
「そう。都羽がたまごで、お母さんとお父さんが右の翼と左の翼。…これは、大通りで見つかったんだ。それで、お前が犯人じゃないかって…」
わたしがストラップを受け取ると、お父さんは思い返すように上をむいた。
「……あのね、お母さんの背中から、翼がはえてるように見えたの。それでね、お父さんに、赤い翼の作り方を教えたいって思ったんだよ」
話しながら涙が出てきた。お父さんは頷いて聞いてくれる。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
もう涙が止まらなくなって、わたしはその場に座りこんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!