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 あの頃、わたしは透明で美しい青の中を踊っていたのだった。  だけどもう、あの頃の青は取り戻せない。  いつの間にかサイダーの青は人口的な風合いを強め、嘘くさくなってしまった。  夏の日の空の青は、いまやわたしに重苦しく垂れこめる。  いつからだろう、わたしの青が、こんなにべっとりとして濁った青になってしまったのは。  腐敗した青いゼリーに湧くウジ虫たち――  いつの間にか消え失せたイノセンス――  幼い日に戻りたい。  川の水のように新鮮で、光り輝き、炭酸のようにはじけ、透明で穢れのない日々に。  わたしはもう一度、あの青に浸って踊りたい。  そしてわたしは必死に、あの青を取り戻そうとする――  父の運転する車に揺られ、助手席で暖かな夕陽にまどろんだ日曜の午後……  もういまはない古い映画館で友達と観たSFと、ふかふかの赤い座席とポップコーン……  風に揺れる教室の白いカーテン……  学校の緑の廊下と梅雨の湿気……  お祭りのわたがしと金魚すくいの匂い……  気持ちのいい冷たい風がスカートを揺らしさらさらとわたしの脚をくすぐる……
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