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人は、すべてを失ってから気づくものだ。
実のところ初めから、何ひとつとして失ってはいなかった、ということを。
失うものなど、何もないのだ。
なにしろ、そもそも何一つとして所有してはいないのだから。
人生は錯覚だ。
一秒に二十四コマの静止画が連続してスクリーンに映し出されることで、あたかも写真が動き出すような錯覚を生み出す映画のようなものだ。
スクリーンの上にはなんにもない。そこでは実態のない、素敵で虚ろな光が躍っているだけだ。
人々はその幻影の中に、流れる時間を空想し、そこから必死に意味を見出そうとする。
この手に出来るものなど、何もない。
スクリーンの上に映し出される世界はいかにも手が届きそうだが、客席から銀幕に向かって物欲しそうに伸ばした手は、虚しく宙を掴むだけだ。
――生きることは、甘い夢なのだ。
落ちていくわたしは、そんなことを考えていた。
〇
夏だった。
二両編成の電車からホームに降り立ち、わたしは火照った田舎の空気を味わった。草木の青臭い香りがした。
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