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いつも花の香りが漂う、素敵な家だった。エアコンも効いていたし。
遠くでかんかんかん、と踏切の音がした。
自動販売機がぶーん、と低く唸った。
わたしはバッグから小銭を取り出し、重い腰を上げて自動販売機の前まで行った。サイダーを買った。
サイダーの冷たさと炭酸が喉に痛かった。
思い出した。
サイダーは甘くて青いんだ。
わたしはサイダーの缶を片手にしばらくその場に立ち尽くした。
「……これからどうしよう」
駅舎から出た。
駅前は閑散としていた。
店らしい店はほとんどない。寂れたレストランが一軒と、花屋があるだけだった。
小さな花屋の前には申し訳程度にいくつかの花が並んでいて、そのすべてが暑さに参っているようにみえた。
花屋から女性客がひとり出てきた。
彼女の手には黄色い花が握られていた。スイセンだろうか。わたしと彼女の間には少し距離があるのではっきりとはわからなかった。それに、わたしは花に詳しくない。
彼女は半袖の黒いワンピースを着ていた。靴も黒かった。
髪は濃い茶色で、ふくらんで波打っていた。
魔女だ。
わたしは彼女を見てふとそう思った。
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