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村へ
「こ…これは、っ…!?」
花を見た瞬間、医師は驚愕の声を漏らした。
諦めて泣きながら戻ってくるだろうと思っていた少年が、花を3本も持って帰ってきたからだ。
「どうやって、これを…!?」
「ど、どうって…普通に、水に入って毟ってきた」
他になにか方法がある?と聞けば、医師も少年を心配し待っていたのであろう村の大人たちは揃って口を噤んだ。
(あぁ…これを採ろうとすれば、どうなるか分かってたんだ…)
痛みより蛇達に襲われた恐怖を思い出せば、ずんっと心が暗くなった。
しかし、どうしてだろう…
一同に驚愕と、喜びの表情が見えるのは?
それに言えるはずもなかった。
全然無事ではないと…。
「これだけあれば、他の眠り姫になってる人たちも、救えますか…?」
「え…?」
「この花だけなんですよね!?あの病気を治せるのは…なら、他に困ってる人たちにも使えますよね?残った薬は姉さんに渡してください!売ればきっと…!」」
あんな想いをして採りに行きたいと思う人間はいないだろうし、金になれば姉さんは全てから解放される。
それに自分は死ぬのだから、姉としては村に思い残すこともなくなる。
じっと医師を見つめると、『多めに薬を作りますから』。
まるで心情を悟ってくれたかのように受け入れてくれた。
* * * *
その後、母家を片付けて村の周囲の景色を脳裏に刻み込んだ。
「…苗床…か…」
思わず腹を押さえる。
本当はあんな場所に帰りたくはないし、恐ろしい神様がいたと冒険者達に討伐を依頼したい。
村人達に、聖域は邪神の住処だった!と教えたい、訴えたい。
泣きつきたい
誰かに助けて欲しい 救って欲しい…
「……っ!!」
ぐしゃっと自分の髪を掴んだ。
皆んなに泣き叫べたら、どれだけ良かっただろう。
でも相手は人ではない。
それこそ勇者でも連れて来ないと勝てないだろう。それにこんな辺鄙な村に、今すぐ来てくれるはずもない。
それに俺が約束を破れば、どうなる?
この村には、どうしても助けたかった姉がいる。
逃げ出せば本末転倒じゃないか。
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