村へ

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そして約束通り、少年は魔族の男と元へと戻ろうとした。 「あ、あれ…?」 おかしい。 確かに洞窟の出口はここにあったはずだ。 なのにどうしてか。村へと戻ってきた場所は岩々によって塞がれており、草が多い茂っている。 最初からそんなものはない、というように…。 まさか道を間違えたのかとサーッと青ざめる。 まずい…。 このままでは、村が酷い目に遭うかもしれない。 「……っ、!」 もう日が落ちかけているというのに、シーナは森への中にある聖域へと走った。 夜になるにつれ魔獣らは凶暴になる。 道中、恐ろしい魔獣に遭遇し食われるかもしれない。 けれど、等価交換だと言われ花を譲り受けたのだ。 姉さんは救われ、残った薬が役に立てば村からも出られる。 行きたいところに行き、なりたいものになれる。 きっと幸せになるのだ… (想像でも…っ、俺はそんな光景を一瞬でも見られたなら幸せだ…!) 「あっ、うっ…!」 昼間とは違う。暗い森は足元が悪くて、何度も転ぶ。 きっと足は傷だらけなのだろうけど、元々ちょっとした痛みには鈍い体質だ。 「はぁ、はぁ…っ…」 そしてようやく、泉へと辿り着いた。 相変わらず岩肌…というより蛇の塊と花は咲き誇っている。 「か・神様…!俺、ちゃんと戻ってきましたっ…」 叫ぶも泉はシン―ッと静まり返っている。 「…だから、だから……ちゃんと、戻ってきたのでっ…村には…」 村には何もしないで下さいと叫んでもいくら懇願しても、虫の鳴き声ひとつ聞こえやしない。 夜になってしまったから、もうダメなのだろうか。 ふらっと立ち上がり、水面へと近づく。 「……食べても、なにをしても、いいですっ…約束は、ちゃんと守りますから…」 意を決して、身を投げるよう泉へと飛び込んだ。 *  *  *  * 毒水の痛みはなかった。 それどころか、なぜか温かい。 「……神様、ありがとうございます」 「………」 目を開くと、シーナを抱きかかえ、不機嫌そうにしている男の顔が映った。 どうやら受け入れて貰えたらしいと安心したが、自分を見つめる目はまだ険しい。 「あの、どうして…そんな顔をしてるんですか?」 「……なぜ、戻った」 「え?」 一体どういうことだろうか? 戻らないと酷い目に遭わせる言ったのはそっちの方なのに、なにが不満だったのかと首を傾げる。 「お前のような貧相な人間など食欲もわかぬわ」 「……ひ、貧相…」 確かに自分など神様の胃袋に収まるには骨ばかりで美味しくないだろうが、食欲がわかないと言われたらさすがに悲しいし、見るからに薄味そうなお前など誰が好き好んで喰うものか。と続ける神様の様子は、怒っているのではなく完全に呆れ返っていた。 「そ、そんな……」 でも約束したのに、と狼狽えると男は盛大なため息をついた。 「………まぁいい。最初から喰う気などなかったのだ。そっちの方で頑張ってもらおうか」 なにをしてもいいのだろう?と笑う男は、 完全に捕食者の目であった。
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