触れる

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そしてつい迎えた、孵化日。 特に腹に収まっている卵に変化はなさそうだが、それでもシーナは限界だった。 青白い顔に、虫の息。 「……、…ぁ、…かみ、さま…」 「人間とは、本当に脆弱だな」 いくらなんでも弱り過ぎだ。と鼻で笑うも、この男には人間の脆さは分からない。 今日もいつも通り果物を持ってきて、いつも通り話しかけてきた。 「喜べ人間。今日は、いいものを持ってきてやったぞ」 「……?」 魔族の男が眷属に運ばせてきたのは一つの大きな鏡。 それを少年の前に置くと不思議なことに村の様子が映し出された。 初めて見る高度な魔力を秘めた、魔鏡だった。 「あ……っ」 「ふーん?これが人間。お前の姉という存在か?」 こくりと小さく頷いた。 場所は集会所でもある村長の家らしい。姉の隣には医師と他の村人らが談笑をしているようだった。 (姉さん…) 自然と笑みを浮かべるシーナ。 嬉しそうにその様子を見ていると、『話し声を聞かせてやる』と言う。 どういう仕組みかは分からないが、男が少し魔力を注げば、不思議と鏡から話し声が聞こえてきた。 『…のーー、よくやった』 『これでーー、村も安泰になる』 優しい姉は花から出来た薬をみんなで共有しようと提案でもしたのだろうか。 青色もよく、元気そうに明るく笑う姉の姿。 (あぁ、良かった。ちゃんと効いたんだ…) そうシーナが安堵したのも束の間。 『君は、使えない弟のせいで散々苦労してきたからね』 姉を労うよう医師の口から出たのはそんな台詞だった。 背筋が凍り、ドクンッと心臓が跳ねた。
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