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魔族の男が、人間を釣るために用意した万能薬になる花。
どこぞの王様が大金を用意してまで望む花。
王宮魔術師たちも喉から手が出るほど求める代物。
ーーーまさに、財宝のひとつ。
しかし簡単に奪われてなるものか。
舟を出そうにも蛇の大群に襲われ、たちまち喰われる。
魔術を使おうとしても同じこと。
さらに花と蛇達は表裏一体だった。
下手な冒険者などに蛇の討伐を依頼したなら、花ごと吹っ飛ばされてしまう。
昔は囮を使い花をむしっていたが、近年はあの毒水の出現に悩まされた。
このままでは、村の金が底をつきてしまう。
そこで目をつけられたのが、毒水に耐えられそうな少年、シーナ。
微弱だろうとも村で唯一、苦痛耐性の加護を持つ者。
「最愛の姉が奇病に倒れたとき、少年は唯一薬になる花を
己の命の危険を伴ってまで摘みに行けるか」
目を見開くシーナの前で、
その会話を本人に聞かれてるとも知らず、ネタバラシは繰り返された。
『えぇ。やっと…!この村から解放されたわ』
これで念願の魔術師の学校へ通えると姉は言う。
『あの子には悪いが、せっかくの加護を持って生まれたのだから…"これからも"役に立ってもらわんとなぁ』
『しかしこんなに茎が傷んでいる。次はもっと丁寧に採るように言わないと、花の価値が下がります』
『しかし、眠り姫というネタは使えんぞ?次はどうする?』
"なら、村中での流行病にしてしまおうーー…"
村長が目の前にある花を見て不敵に笑う。
村人たちは都合のいい演技と言い訳を繰り返し、これからも毒水の激痛を耐えるよう、シーナただ一人に過去にあった生贄や囮といった役割を押し付けるつもりだった。
これが、これといった資源も特産品ない貧しい村が潤う唯一の瞬間である。
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