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「……なら薬の、原料になりそうなものは、ないんですか…?」
震える声。けれど泣いちゃいない、まだ望みがあるかもしれない。
「……一つだけ。けれどとても危険で…」
「教えてください!俺、何でもします!できます、だから…!」
とっさに医師の服に掴んだのは藁にもすがる思いだった。が、
「この村の聖域に咲く花が、この病に唯一効く」
「せい、いき…っ…」
聖域に咲く…と聞いて背筋が凍った。
ここの住人ならば誰もが知っている。
村の森の奥深く、ひっそりとそこはある。
透明で綺麗な湧いている浅くて広い泉。
その中心にある岩肌に血のように赤い花が咲く。
枯れることもなく一年中咲き誇る美しい花。
しかし問題は、聖域だからということではない。
岩肌を囲む泉。水の中には魚も虫もいない、水草も生えない。森に住む動物も人間もその水を飲まない…
何故ならば、触れると激痛が走る毒水だからである。
花だけが、その毒水と太陽の光を糧に生きていける。
まさに神秘的であり、気がつけばそこは聖域と呼ばれていた。
「その花が薬になる…なら、っ…先生は調合は出来るんですか…?」
「君が花を持って来れたなら、必ず」
「なら、俺は……」
姉をチラッと見て、少年は決心した。
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