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あたたかい
寒くも暑くもない。
このままこの温もりに浸っていたい。
けど不思議だ
真っ暗でよく分からないけれど花みたいに、ふんわりと甘くて優しい匂いがする。
無意識にその方向へと手を伸ばせば、さらさらとした細い糸束を掴んだ。
これはなんだろう…?
「…ー、…おい。人間、いい加減に目を開けろ」
この声ではっきりと少年の意識は覚醒した。
「―――!?」
目を開けると視界の前には、不愉快そうな見慣れた顔。
男は布団に巻いたシーナをがっしりと抱き抱えていた。
今度こそ死んだと思っていたのに…!
「なっ、なんでっ…っ…、!?」
一体どうしたのか。ハッキリと声が出た。
毒による息苦しさもなければ、腹の中からは重さも苦しみも取り除かれている。視界もはっきりしている。
「暴れるな、大馬鹿者。まだ完全に毒が浄化できたわけじゃない」
その顔も声も、ハッキリと怒りを含んでいる。
そうか…
勝手に死ぬなど、許されなかったのか。
「で、人間。いつまで私の髪を掴んでいる気だ?」
ニヤリと笑われて自分の手元を見ると、神様の髪の毛を思いっきり掴んでいたのに気付いた。
瞬間、血相を変えて青ざめる。
きっと楽には殺してもらえない……。
掴んだ手を離したいのに恐怖で萎縮し、手が開かない。
『主人様。人間が困惑されてます…もう少し、説明されては?』
「!?」
おずおずと話しかけてきたのは一匹の黒蛇。
その声が…人間であるはずの少年が聞き取れてしまった事に再び困惑する。
「……そう驚かなくていい。私の核を三日も体内に入れていたのだ。普通そうなる」
普通そうなる?
ならば何故、わざわざ入れた腹の異物まで取り除いてくれたのか
「…あの、神様?」
「お前は苗床を選んだようだが、どうせ死ぬ命ならば私が好きにしていいだろう?」
「…え、」
選択肢などなかった。
どうゆう返答が正しいのか狼狽するシーナに、見かねた眷属が助け舟をた出す。
『断りたかったのでは?』
「?断るならばなぜそうしなかった?そういうのは最初に「嫌だ」と拒否するのが当たり前だろ』
男にとってはシーナがどんな返事で楽しませてくれるのかしか興味がなかった。
苗床として務めるならばそれでもいい。
ただ救いも求めず身体を預ける姿には不思議な感情が芽生えた。
そして気づいた時には卵ではなく、分離させた自身の「核」を埋めていた。
生命は宿らないが、核と呼ばれる純度高い魔力の結晶。
そこから溢れ出す魔力をシーナは三日も腹の中で受け入れ過ごした。
その、結果として眷属の声を聞けるようになった。
『ご主人様。人間が固まっています』
「暴れられるよりよい」
なにがいいものか。
人間のシーナに、魔族の常識など理解できるはずがない。
「で、お前は死にたいのか?」
「……死にたくない、です」
そう素直に言えばどうしてだろう。
機嫌良さげに男は少年の頭を撫でた。
考え方、常識の違い…は、どうしようもない。
ただ、ひとつだけどうしても解せないことがあった。
「どうして、助けてくれたんですか…?」
「…………・それは…」
純粋に尋ねると、顔を赤らめ
「恩人である私に仕えろ」
意味のわからない事を言い、笑った。
「私は神様、なのだろう?」
崇めていいぞ?と言われた少年は…
行われたやり取りについていけず、再び気を失った。
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