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「…わかった。けど、もう日が落ちるしあの森には魔獣もでる。今日はここに泊まっていきなさい」
「でも…!」
「心配はいらない。1日や2日くらいですぐ死ぬような病じゃないから。ね?」
「……わかりました」
よしよしと頭を撫でられても何も安心できない。
少しでも精をつけなければね、と食事を振る舞われたが味はしなかった。
頭を占めるのは一つだけ
日が出たら、早くにここを経とう。
小鳥の囀る声も聞こえない、無音の空間。
こんな険しい山道に舟を運べるはずもない。
大人たちにも声をかけてみたが、御神体のような存在である聖域の花に触れるなど罰当たりだ!と手伝ってはくれなかった。
「すごく、綺麗な水なのに…」
シーナは一度たりともこの水に触れたことはないが決意を込めて、つま足をつけてみた。
「ーーーあっ、づ、っ!!っ!」
悲鳴。
その刺すような痛みにたまらず足をあげる。
焼けたんじゃないかと咄嗟に足を確認するも、赤くすらなっていない。
水滴もついていない、嘘のように痛みも消えていた。
「……っ、ぅ…っ」
危険なのも、こうなるのも理解していたのに…
足が無事だった。
そのことに安堵してしまった自分が情けない。
じわじわと涙腺から涙が溢れてきた。
「うっ、・ひっく……」
いやだ。痛い、痛くて こんなのは無理だ…
どれだけそこで泣きじゃくっただろう。
ただ、ぼーっと考えていた。
なんのために此処にきた?
医師に言った覚悟は嘘だったのか…?
薬もない。金もない。
どんなに泣こうが喚こうとも、意味はない。
姉のように魔法の適性があったならばよかったのに、シーナには何もなかった。
(情けない…っ、情けなさすぎる…!)
だからこそ、少しでも心は強くあろうとした。
このままでは姉が……たった一人の姉が死んでしまう。
見殺しにするなんて、許されない
だから、決意した。
そのだったはずだ…
「今度こそ、は…っ」
意を決して、ぎゅっと目を瞑り飛び込むように足を入れた。
「ーっ、痛…っ。あ"っ…」
幸いにも水の深さは膝の下。
深そうな場所もない。
なにより、意識がはっきりしている
(大丈夫…、大丈夫っ…!)
ぐっと下唇を噛んで足を動かす
握り拳に思いっきり爪を立てて意識を飛ばさないようにして…ただ前を向いた。
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