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アンティークの一人掛けソファーが2つ、二人掛けソファー1つに美しい模様が入ったテーブル。丁寧に織り上げられた絨毯。
いま魔族の男がいるのは、住処の洞窟ではなく優雅な応接間。
「……で、俺にその魅了を解いてほしいと?」
彼の名はハロルド。
この村を200年ほど前から支配しているヴァンパイア種であり、目の前で茶を啜っている引きこもり半人半蛇の数少ない友人。
「お前が、1週間と開けずに来たもんだから何事かと思えば…」
深刻そうな面持ちを案じ、真面目に耳を傾けてみれば…、はぁーっと深いため息。
「仕方ないだろう。最近はアレに読み書きを教えてやっているのだが、」
「あぁ!?お前が!?」
こう何度もハロルドが驚かされたことはない。
人間を娶った…いや、飼うと聞いてから驚きの連続ではあるのだが、本当に魅了にかかっているんじゃないかと疑ってしまう。
「村にも帰れず、暇そうだからな。だが、最近…」
「最近、なに?」
「あの人間を見ていると、卵を入れたくてしょうがない…」
要するに、そばにいるとうっかり発情しそうになる。らしい。
「ヤりゃいいだろ。つか、一回交わったんだろ?」
「あれは合意の上だ。それに自制が効かない雄は嫌われると雌の眷属たちが言うので…」
(俺様人外攻と性奴隷受かと思いきや、まさかの天然溺愛系攻と健気受けかよ)
「ありがとうございます」
「何がだ?」
「あ、いや。こっちの話だ。で、出した核は?」
加護を与え終わった核は用済み…というわけではない。
純粋な魔力の結晶は宝石のように美しくアダマンタイト並みの硬度を誇る。
希少な鉱物と同等な価値があり、どこぞの戦好きな王様やAランク冒険者が使用する武具・防具の装飾に大変好まれる。
さらにある程度の大きさを保てば、微弱ながら核に残っている加護を受けられる。なにが付与されるかは魔族の力量次第なのだが…。
史実。その宝玉を求めた人間達のせいで蛇種の魔族はほぼ狩りつくされ、魔族たちの中でもダントツに数が少ない。まさに絶滅危惧種。
「色々あったからな…。本来ならば核を食うまでが習わしなのだが、くれてやった」
「お前馬鹿だろ!?」
バンッと机を叩くも、ナーガ種の男は涼しい表情で茶を飲んでいる。
「アルビノの、お前の加護だぞ!?何だ、何が宿ってた!?」
「蛇王の祝福…だったな。微弱だが」
「なん、だと!?」
ハロルドの開いた口が塞がらない。
おそらく少年についた加護は微弱などではないだろうが、あらゆる魔術威力の向上と魔術耐性の向上。たいがいの…毒を始めとするデバフは無効化する。
まさに蛇王に愛された加護。
どこまで効果があるかは未知数だが、万能の花なんぞよりも数倍価値がある。
(コイツ、よりによってなんてもんを作りやがった!?)
「お前!そんなものが出回ってみろ、ゲームバランスがおかしくなんだろ!?」
「ゲームバランス…?」
「下手な流通でアホな冒険者共が強化された挙句、うちの村に被害が出てみろ!?一生お前を許さないからな!?少年が必要としてないなら、核の加護だけは消去しろ!いいな!?」
人が、蝶よ花よと育てた大切な村だ。
こんなアホみたいな理由で失ってたまるものか
「あと言っておくが、お前は魅了もされちゃいないし、呪われてもねぇよ!それは、恋の病だ!」
ビシッと指さしてはっきりと鈍感魔族に告げてやった。
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