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シーナが魔族のもとで生活をはじめ、早6日目。
いくら貧しい村の育ちでも、成人した男。自分の食い扶持は、自分で稼ぐのがモットーだ。
といっても、森の中で金品のやりとりは無駄以前に意味がない。
日中の散歩は、だいじな食糧集めの時間になっていた。
今日も一人、洞窟を出て周囲を探索する。
【シーナ、そっちの木の実はまだ早いわ】
【オオネズミの巣、見つけた。ネズミ喰う?】
「ありがとう、マキさん。えぇっと、オルガさん、せっかくだけどネズミはちょっと…」
けど、野山に住む野ネズミならば…いや、肉は神様の許可がいりそうだ。
与えられた加護のおかげで2匹の黒蛇、マキとオルガとはすっかり馴染んだ。
けど分かるのは言葉だけ。まだ見分けはつかないけど、彼らの声色や話し方で区別をつけていた。
(他の蛇達とも仲良くなりたいけど…人間だから嫌われててるしなぁ)
森で本能に従い生息する蛇達たちは、シーナを襲わないが、同時に語り合うこともない。
マキとオルガは魔力を持たず、まして人型になることはないが、長い時間をかけて自我が芽生えた、本人たち曰く変わり者らしい…
彼らが森の危険な場所や食べごろの木の実やキノコが生えてるところを教えてくれる。
今日も苦労することなく籠いっぱいに食べ物が手に入った。
(でも…たまには肉が食べたいなぁ)
思いはするけど贅沢は言えない。
魚を獲りたいけど釣竿はないし、罠を仕掛けようにも近くの川は流れが速い。
そもそも聖域が違いという理由から、この近辺での狩りは村でご法度とされている。
そんな時、背後からざくざくと人が歩いてくる気配が聞こえた。
まず、こんな山奥に人なんて来るはずがない。
「神さ…!」
振り返り笑顔を向けると、そこには金色の髪を靡かせ、空のような澄んだ碧瞳の…全く知らない男が立っていた。
「…っ、誰ですか?」
咄嗟に警戒する。
村人ならば黒髪黒目だ。この男が遠くから来た異人だとすぐ分かった。
腰には携えた短剣。白いマントに丈夫な皮の靴。身なりが良さそうな男が、どうして山奥に?
「あ!ごめんごめん、友人を訪ねてきたんだけど迷っちゃって」
人当たりのいい笑顔を見せ男は怪しいものじゃないよ!驚かせてごめんと語る。
「久しぶりに来たら、どこがどこやら…君知らない?」
無害そうに詫びる男に安堵した。
どうやら男は村より先に聖域付近に出てしまったらしい。行商人も滅多に来ない田舎の土地。こうして旅人が迷うのはよくあるのことだ。
「この先には、毒で汚れた泉くらいしかありませんよ。村に行くなら、そこの獣道を…ちょっと複雑なので近くまで案内しましょうか?」
「助かる助かる!第一村人発見できてホント救われたよ!」
嬉しそうにはしゃぐ旅人に「へんな人だなぁ」と微笑みながら、こっちですと案内しようとするシーナだった。
「あ、違う違う。俺が行きたいのは泉の方」
「?」
待ち合わせでもしてるのだろうか?
首を傾げると男は続けて言う。
「いるよね?ナーガ種の化け物」
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