惚れたものが負け

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はぁはぁ荒い息を吐きながら、とにかく獣道を走った。 「道中、あんまりにもいい匂いがしたから…つい君を探しちゃった」 いくら振り払っても後ろからついてくる声。 得体が知れない。 このまま神様がいる場所に逃げ込むのは、危険だ。 (っ、ついて、きてる…!?) 「ねぇ、逃げないで?話をしよーよ」 振り返らずとも分かる。声の主は自分を追いかけてきている。 少しでも泉から離れなければー、 「…うぁっ、!?」 剥き出しの木の根に躓き転びそうになった時、後ろから伸びた手に捕まった。 「もー、危ないなぁ」 「ーっ、」 ぜぇはぁと息を吐くシーナと違い、あんなに山道を走ったのにまったく息を乱していない、その額には汗ひとつかいていない。 「汗まみれ、けど…ほんといい匂い」 「ー、やっ!」 スンスンと首筋を嗅がれ、男の吐息を感じる。 吐かれる息はなぜか冷たい。 (怖い、怖い…) 「っ、さ…ま…」 「大丈夫だよ怯えなくても。ちょっと血を貰えたら…」 「やだっ、神様っ!たすけて、神様あぁ!」 劈くような叫び声。 その瞬間木々は鳴き、シーナと男の間に突風が吹いた。 「なにをしている?」 身の危険を感じ、ぎゅっと閉じていた目を開くと、シーナの肩を抱いていたのは知らぬ男ではなく神と慕う魔族だった。   「…その子が、飼い始めた子?」 大樹にぶちあたり無様な格好した男は「いたたた」と頭を摩りながら起き上がった。 日中のおかげで弱体化したヴァンパイアとはいえ、魔族の中では上位種。警戒は怠らない。 険しい顔にいっそう、力が入った気がした。 「し、知らなかったの、ごめん!!携帯してた血もなくなっちゃったんだ。ほんとお腹空いてただけだから!」 「よし、死ね」 「ちょお、待って待って!!お土産も持ってきたから!悪気はないんだよ!頼む、許してぇえぇ」 土下座しながらの謝罪。 あと人間君も怖がらせてごめん、とシーナを見ながら述べた。 「…神様、俺は大丈夫なので…ありがとうございます」 「まだ離れるな。…蛇どもが相当怒っていた」 のんびり昼寝をしていたら『主人様!シーナが、シーナが!』慌ただしく叩き起こされた上、来てみればヴァンパイアに襲われそうになっていた。 「答えろ、ハロルド」 「いやいや、怒ってるのは君の方でしょ…。頼まれた人間の飼い方の本、仕入れたのに全然取りに来ないんだもの」 死んだんじゃないのかと心配してきた。 まぁその様子だと元気そうだね、とまた笑う。
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