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「確かに食という本能は抑えられんが、私の縄張りに侵入した者の肉ならば問題ないだろ」
「あ。ちゃんと捕食はしてるのか。よかった」
うんうん。
魔族の血肉なんてゲテモノだ。それに魔族が無抵抗で喰われるもんか
戦いになればコイツも無傷ではいられない。
心から安堵した。
「捕食じゃない。人間がいう遭難者を人里近くまで連れて行ってやる代わりに、体の一部を貰うだけだ」
「うわぁ。今までの君なら放置か容赦せず丸呑みにしてぇーって、あれ?万能の花はどうした?」
「………いまは、必要ないものだ」
ふん、と顔をそらす友に、ホント素直じゃないなぁと笑みを溢す。
素直にシーナの顔見知りかもしれない人間を喰うのは気がひけるって言えばいいのに。
これが、人間を娶った効果なのだろうか。
「そんな、おやつ程度で満足できるのか?」
「くどいぞ。第一、衝動的な欲求ならアレの体液で足りている」
「んぶっ、っ!?」
危うく口に含んだ蛇の血を吹きかけた。
コイツ、涼しげな顔のままなんて言った??
「なんだその間抜けヅラは?まぁいい。私の方はいいとしてもアレのことはさっぱりだ。ハロルド、先ほど栄養がどうとか言ったな?人間にも必要不可欠なものがあるのか?」
「ゲホゲホッ、ちょっ、待って、」
待ったをかけるも、質問攻めは終わらない。
「長年、人と暮らしてきたお前の知識は馬鹿にできんからな。私は、どうやら毎夜無理をさせたらしい。アレにつけた蛇どもから数日は交尾を控えるよう嘆願され、三日も経ったぞ。人間は一体何日休ませればいい?もう触れてもいいのか?」
絶句。
まさか空腹で動けないとか深刻な理由ではなくて、シーナ君がそばにいたら"そういう意味で"手を出しそうだから引きこもってたのか…?
いやいや、なにこいつ!?
俺は忘れない。シーナ君のピンチで現れたこいつは、本気で俺を殺そうとする眼の色だった。
さらに、プライドを神棚にあげてるレベルのお前が、お前の教えが必要だ?はぁ!?
「二人で引っ越してきなよぉお!俺、お前ら見てるだけできゅんきゅんしちゃう!」
「お前の所は騒がしい」
「そんなこと言わずに考えて!?このままシーナ君を村も帰さず、ずっと洞窟生活をさせる気?彼にはやりたいことをさせてあげたくない?」
「…………」
俺の友人は相変わらず難しい顔を浮かべているが図星を突かれたのか反論はしない。新婚さんだもの、他人に邪魔されたくない気持ちはわかるけどな。
俺は、欲しいものは欲しい。
「俺の村にくれば君は人間の生態に詳しくなれるし、食事にも困らない。シーナ君は不自由な生活から解放される。うちにはお前という戦力が加わるし、メリットしかない!」
「………アレが、望むなら」
「彼はお前について行くさ。それにシーナ君が君を神様だと崇めるなら、うちの村で生き神として奉ろうか?」
お前が思うより、その蛇の半身はおぞましくないし、厨二病腐男子の俺からしてみたらカッコいい部類だ。
うんうん、それがいい。
お前らがうちに来て反発なんて起こるはずがない。
みんなが、みんなで、幸せになるんだ
その、あと一歩だという時、スパーーーン!!……というわけではないが、部屋の扉が開いた。
「だめ、だめです!!!」
洞窟…いや、部屋に響いたのは
シーナくんの、待った!の声だった
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