惚れたものが負け

8/12
89人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
シーナ視点 さぁ、これからどうしよう… 大事な話があると部屋を追い出された俺は、再び食料集めに戻ろうか悩んでいた。 【それにしても珍しいわ。ハロルド様がくるなんて何十年ぶりかしら?】 【覚えてない。それより、オルガはさっきのこと許してない!】 【大丈夫よ、オルガ。いつものように面白がってご主人様を揶揄っただけよ】 最後にボソッと言った【たぶん】は聞こえなかったことにしよう。 ふんふんと怒るオルガと、それを宥めるマキ。 ……さすが長寿の二匹。マキとオルガは、神様の友人であるハロルドを知っているらしい。 「ねぇ。あの二人って、どんな間柄なんだ?」 【【……】】 純粋な疑問だった。 なのに何故か二匹は驚いたかのように固まり、お互いの顔を見合わせた。 なんだかその仕草が少し可愛い… 【気になるのか?】 「う、うん?神様に友達がいたなんて、はじめて知ったから」 【トモダチ?ハロルドは、】 【待って、オルガ!……せっかくシーナがご主人様に興味を持ったのよ、まずは順番に…】 興味を持ったのは神様のことではないのだが、なにやら楽しそうにヒソヒソ話をしている。 【では、まずハロルド様の、ヴァンパイアについて教えてあげるわ】 「あっ、はい!お願いします!」 一通り話が終わったらしい 嬉々として、人間の生き血を好み糧とするヴァンパイアという魔族について教えてくれた。 強い魔力を持った蛇が半人半蛇のナーガ種へ変異したように、ヴァンパイアは蝙蝠から変異した魔族だ。 彼らの見た目は人間と変わらず、大胆にも餌の多い人間社会に溶け込み生活をする。 主に幻惑系の魔法を得意とし、油断させた獲物に鋭い牙を突き刺し吸血を行う。 昔は太陽の光を浴びれば正体が暴露る弱点があったが、彼らが開発した特殊な"魔具"を使うことである程度ならば克服したらしい。 「魔具かぁ。俺はそんなに魔力がないからうまく扱えないけど、便利だよね…」 魔導道具ーー略して魔具。 種類は数多く、それを動かすために必要な魔力量も異なる。 この洞窟にある一見古い壺のように見えるソレに、神と慕う男が魔力をそそげば、あんなに薄暗くひんやりしていた洞窟内にほどよい光と陽春のような暖かさが満ちた。 【どうしたの?暗い顔をして】 「いや…。神様の力を頼らなくてもいいようになりたいなぁって…」 【?ご主人様は気にしてない。楽しそう?嬉しそう?】 「はは、ありがとう。オルガ」 そんなことはない、魔力を使えば当然疲れる。 (それに…) 暗い影を落とすのは、姉のことを思い出したから。 産まれたのがあの貧村でなければ、今ごろ名のある冒険者か王宮魔術師になっていたかもしれない、優秀な姉。 爪の先でいいから姉のような才能があったなら、…。 姉弟で生まれ持った差を、少しだけ悔しいと妬んでしまった。 【大丈夫よ。ご主人様もおっしゃってたじゃない。魔力を注ぐコツさえ覚えたら、生まれ持った魔力の大小は些細なものだって。】 「うん。マキもありがとう」 本当に優しい二匹だ。 そうだ。神様からそのうち教えてやると言われた。 姉さん以外の誰かから知恵や知識を学んだことはない。 早く教えて欲しいと心待ちにーーーって、違う違う! 「ごめん!いまは、ハロルドさんについて聞いてたんだった!」 【あぁ、そうだったわ。そうねぇ、ハロルド様は魔族の中でもとくに変わり者よ】 「変わり者?」 【ハロルド、人間と共生する村を作った】 「え!?」 魔族は人間から血をわけて代わりに魔獣共から村民を全力で守る。 そして人間は土を耕し、村を豊かにする。 お互いがお互いを守り、育む。 「すっ、すごい…」 目から鱗だった。 あんな気の抜けたような人が……いや、人じゃないけど、立派な目標があるなんて! そんな夢のような場所があるなら、魔族も人間も、誰も不幸にならない。 キラキラと追い出された部屋に尊敬の眼差しを向けた。 【でも、ハロルドは、ーーー】 オルガが言った、次の台詞を聞くまではーーーー… だからこそ部屋の前から離れるのを躊躇い、盗み聞きをしてしまった。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!