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「ん…・…?」
気がつくと何処かの薄暗い洞窟にいた。
ちらっと握りしめた片手を見ると3本の赤い花。
それを見てほっと胸を撫で降ろすも、さっきまでの自分の状況をようやく思い出した。
「…あ…、…・どこも、痛くない…?」
はっと身を起こし体をぺたぺたと触るが、痛みはなく服も乾いている。
本当に不思議だ。
「し、死んだ…?」
まさかそんな…と思うが、いまは痛みと苦しみから解放された安堵が強い。
早くに両親に先立たれ、姉と二人。
姉には魔術の才能があったが、貧しい村ではその才能を十分活かすことが出来ず苦労する日々。
村を出るには金が必要だ。
無許可で抜け出し、それが見つかれば激しい折檻が待っている。
せめてもう少し金さえれば自由になれたはずなのに彼女は弟の存在を見捨てられなかった。
無能で、食い扶持だけかかる弟。
シーナという存在さえ捨てられたなら…。
(否定してばっかりの人生だったな…)
ロクな人生ではなかった。
けれど思い残すことがあるならば、あんなに耐えたのに姉を救えなかった事だろう。
「人間。痛みにまで耐えてお前は何を望んだ?」
低い、男の声だった…。
地面に寝たまま顔を上げるとそこにいたのは村で見たことのない、恐ろしく顔立ちの整った美丈夫がいた。
銀色の長髪に、炎のように赤く透き通った瞳。
「―――!」
一瞬、その神々しさに息を飲んだが、男の臍から下は白い蛇の異形だった。
「なんだ、喋れないのか?」
ふんっと鼻息を鳴らされると、シーナははっと我に返った。
そして小声でもはっきりと答える。
「姉さんを…救い、たかったです」
「ほう?私を見ても驚かないのか」
心底感心したような声だった。
シーナとしては、さっきからずっと恐怖と驚きの連発だった。
痛みもなく、死んだ今だ。こんなことで動揺などしない。
「神様!…俺はなんでもしますから、この花を…どうか姉に…っ」
ただ、それだけを叶えて欲しかった。
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