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眠り姫という、奇病にかかった姉を助けたい。
その切実な声は洞窟内に響いたが、男はそれどころではなかった。
(神…だと?)
少年からそう呼ばれた魔族はポカンと口を開けていた。
一体誰が?
私が?
意味が分からんと困惑する男を前に、深く土下座し頭を下げているシーナはその様子に気づいていない。
(このガキ…これが、どういう代物なのか分かってないのか…?)
ぎゅっと強く握りしめるように手に持っている花は、うまく調合さえ出来れば不老不死すら叶う万能薬にもなる。
ありとあらゆる病と傷を癒す。
その効能故に今でもどこぞの王が求め、高値で冒険者を雇い手に入れようとする希少品だ。
それを餌に釣られた人間を襲い、眷属達が喰う。
魔族の男とて全く人間を食べないわけではないのだが…
もしこの少年がその価値を知っているならば、丁寧かつ慎重に扱うはずだ。
(久しぶりに花に触れた人間の、しかも子供が現れたと聞いて帰ってみれば…これまた…)
じっと見ると貧相な体と、ボロボロの手。
花の価値すら知らない無知。
悪習だからと村がやめたはずの生贄にしてみても…もっとマシなのを寄越すだろう。
いかんせん食欲すらそそられない。
このまま眷属である蛇達の苗床にしても餌にしてやってもよかったのだが、眷属の雌たちが『人間でも子供はちょっと…』といらぬ情を訴えた。
まぁ、この姿を見たところで無力な人間になにかできるはずがない。
不穏な動きを見せるなら即座に殺してしまおう
男にとってシーナは、その程度であった。
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