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とはいえ正直、魔族の男とて思う所はある。
(ふむ。やりすぎたか…?)
昔に比べ、強い加護を持つ冒険者や魔術師らが増えてきた。
人間は魔族にとって大事な糧だが、希少な花を易々とくれてやる必要はない。
花を摘まれるたび罠の内容を変え今に至るのだが、どうも難易度が高すぎたらしい…。
花の報酬はすさまじく、あの村は潤っていたはずが近年は失敗続きだったと、今になって気づく。
男にとって村の経済状況などどうでも良かったが、このまま貧困に苦しめば人間たちはこの土地を去るだろう…
そうなっては、せっかくの糧が減ってしまう。
「いいだろう、ならば等価交換だ」
「とうか…?」
土下座をやめ、顔をあげる少年の顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
「いわゆる物々交換だ。人間、お前にその花を渡そう」
「!!」
本当ですか!?
ぱぁっと明るくなる少年の表情をみて、「喜ぶのはまだ早いぞ」と釘を刺す。
「私は最近現れた勇者のせいで大切な眷属を何匹か失った。だからお前には…その胎内の奥まで蛇の卵を何個か生みつけてやろう」
この少年が、泉の毒水に耐えて歩ききったことは知っている。
鑑定を使用し中身を見れば、たいした魔術の才能はなかったが『苦痛耐性(弱)』があった。
耐性があろうとあの泉は、この少年に味わったこともない苦痛を与えたはずだ。
それでも壊れることのない、精神的な強さもあると理解していた。
「その胎の中で孵化した子らに身を捧げ、のたうち回って私を楽しませろ」
花の対価は、苦痛にもがいて死ぬこと。
そう残酷なことを言って魔族は笑った。
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