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そして、少年の反応はーーー…
「俺、死んでなかったんですか…?」
少年の一言は、それはあまりに予想外の発言だった。
「………そっか、俺…生きてるんだ」
シーナとしては死んだものだと思っていたのに、まだ生きていると知った。
まだ、やるべき事をやれる。
この花を、医師に渡して姉を救えるのだ。
(まだ、諦めなくて良いんだ…)
その後は結局死んでしまうのだが本来シーナは水に落ちた瞬間、あの蛇達に食い散らかされて激痛の中で死ぬ運命だったのだ。
それを、目の前に立つ男の気まぐれで、生かされたに過ぎない。
けれど、生きていると分かった瞬間、心がわきたった。
「俺…神様からしてみれば、大事な花を盗みに来た泥棒なのに…」
「誰も助けてやるとは言っていない」
確かにそうだ。
許されてはいない。
死ぬのが少しだけ先延ばしになった。それだけのこと。
「…1日ください。花を渡したら、此処に戻ってきますから」
時間があれば、故郷の景色を目に焼き付けておこう。
とくに広い村ではない。半日もあれば周りきれるのだが、ひとつ。どうしても探したいものがあった。
「いいだろう。ただし、約束を破れば村人どもを適当に捕まえ、お前の代わりにしてやろう」
そして泉で体験した以上の苦しみを与えるなど恐ろしいことを言えば、小さく笑っていた少年の顔色がかわった。
(ここまで脅せば、良いか…)
あの村は自らの資源だ。悪戯に傷つける気など毛頭ない。
少年は怯えて二度と泉に戻って来ないだろうし、大人たち話したところでコレにどうにか出来るはずもない。
例え少年が戻ってきたところで、再びこの場所に招いてやるものか。
今回は眷属らが勝手に巣穴を開いただけで、そう簡単に来れる場所ではない。
「ありがとうございます!」
「ふん…。その足元にいる蛇が帰り道を教える。見失わないように気をつけろよ?」
「はい!頂いた花は、必ず大事に使います!」
そう約束してシーナは一匹の蛇を追いかけ洞窟を後にした。
『素直じゃないんだから』
眷属の一匹が耳元でそんなことを言うので、やかましい。と悪態を吐いた。
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