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少年
生まれ育ったのはとても小さく貧しい村だった。
これといった資源もなく特産品もない。
そんな痩せた土地で暮らす少年と5つ上の姉。
「シーナ!」
「ねぇちゃん!」
釣りから戻ると姉が手を振りながら家で待っていた。
幼い頃に父と母を事故で亡くし、シーナと呼ばれた少年の家族はこの姉だけだった。
「みてみて!今日は大量なんだ」
「すごい立派!さっそく干物にしないとね」
よくやった!と頭を撫でられると誇らしい気持ちが強くなる。
「へへへ。今日はいっぱい獲れたから少し贅沢な食卓になるといいな」
「うん、そうね。今日はー…ぁ、らっ…?」
「ん?どうした、ねぃちゃ、ーーっー!?」
まるで気を失うようにシーナの目の前で姉が倒れた。
「お、おい!?どうしたんだよ!?」
抱き起し揺さぶっても意識がない。
とにかく只事ではないことくらい分かった。
シーナは慌てて近くに住む大人を頼ると、すぐさま姉を抱えてもらい村にある唯一の診療所へ運んでもらった。
「残念ながら…もうお姉さんは目を覚ますことはありません」
「…、な、なんでっ!?」
ベッドに寝かされた姉。
彼女の隣につきそうシーナに医師は残酷な事を告げた。
「これは『眠り姫』という眠ったまま衰弱死してしまう奇病なんだ」
「すい、じゃくし…?」
学校に行ったことのないシーナは、はじめて聞く単語に首を傾げた。
「眠ったままでは食事も摂れないし水も満足に飲めないから、体がどんどん弱って死んでしまうんだよ」
「…っ!?」
医師は気まずそうにシーナから目を逸らした。
ーーー死ぬ?
姉が、このまま…弱って…?
「薬とか、ないんですか!?」
「治す薬は高額すぎてここにはないんだ…大きな町に行っても往復で一週間以上はかかってしまう。人間は飲まず食わずでは、そんなに長く生きられないんだよ」
「そんな…!?」
思わず姉を見るも固く閉ざされた瞳と口元はなにも語らない。
顔色も悪くない、息も乱れちゃいない。
今にも起きあがり「どうかしたの?」とでも話しかけそうな雰囲気なのに
(このまま死ぬなんて!)
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