Birth-Day

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「帰ったぞ。これ人数分買ってきたんだけど…」  様子を伺いつつ、二人に声をかけた。 「おかえりなさい」  妻は答えてくれたものの真顔だった。娘は下を向いていた。 「…何だ?」 「成績のことでちょっと話してたの」  どうやらあまり良くないらしい。妻が定期テストの結果が書かれた紙を持っていた。 「悪いのか?」 「良くないわね。これ以上落ちたら公立高は受けられないって。きょう面談だったのよ」    知らなかった。家のことは妻に任せきりで無頓着。今更口を出す気にはなれないが、いまのこの空気は耐えがたいものがある。 「その話は後にしないか? ケーキ食べよう」  俺だけ食事の前になるが、ここは仕方がない。太ったらいま以上娘に嫌われるかもしれないと思いながらテーブルに箱を置くと、娘が顔を上げた。 「私の誕生日覚えてたの? 母さんは忘れてるみたいだったのに」 「忘れてないわよ。それと成績は別の話で」 「別なら一旦後回しにして…」  言い合っていると電話が鳴り、妻が動いた。  受話器を取り、話し始める。最初はかしこまっていたが、相手が実の妹であると分かって軽い口調に変わった。スマートフォンの調子が悪いため固定電話にかけてきたらしい。 「なるほどね」と話を進めている。  言い合いから逃れられたのはいいが、娘と一対一で向かい合うのは何か気まずい。余計なことは考えずに話を続ければいいのだろうが、普段避けられていることを思うと言葉が出てこなかった。  ケーキを乗せる皿でも出そうかと席を立つと、娘が声を出した。 「父さんにも良いとこあるんだね」 「…いま気付いたのか」 「知ってた」 「なら、何で避けるんだ?」  思い切って訊いた。 「さあ」 「さあ、って…」 「別にこうだからって理由ない」 「なら別に避けなくても」 「そう言われても」  せっかく少し近付いたのにまた遠ざかってきた。悪化しても困るので話を引き下げることにした。 「まあいい。ケーキ食べようか」 「…うん」娘はどこかぎこちなく頷いた。「そういえば父さん晩ご飯は?」 「会社で済ませた。いつもそうしてる」 「大変だね」 「…まあな」  俺は皿を並べながら答えた。また何を言えばいいのか分からなくなってきた。それは娘も同じだったようで、黙ってしまった。
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