5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
が、長い沈黙にはならなかった。娘が「ケーキ出すよ」と言った。
「父さんがやったら崩しそう」
そこまで不器用ではないが、ここはやって貰うことにした。
「頼んだ」
「はいはい」
「それとこれから避けるの無しな」
「何で? それとこれとは別だよ」
流れに乗って言うと、妻と同じように返してきた。声の質こそ違うが似ていた。
「何笑ってんの?」
「いや母娘(おやこ)で似てるなと思って」
「変なの。キモイ」
「そう言うなよ」
「言うよ。思ったら言う」
やめてくれと言ったが、引かなかった。
「分かったよ。勝手にしてくれ」
諦めた。
この感じならいつまでも嫌われたままということはないだろう。一過性のものだ。いつかは戻ってほしいと思いながらケーキを皿に置く様子を見ていると、軽く睨まれた。
「何見てるの? フォーク出してきて」
「…はい」
やはり妻に似ている。それないつまで経っても敵わない。これからどうなるのだろうかと思いながら、フォークを探しに動いた。
が、見つからない。引き出しを開け閉めしていると「うるさい」と言われた。
「もういいよ」
結局は娘が隣の引き出しを開けた。苛立っているように見えたが怒ってまではいない。
「次、紅茶」
「それは電話が終わってからで良いんじゃないか?」
茶葉のある場所も分からないので誤魔化した。それを見透かしているのかいないのか、娘は不満げな顔で椅子に戻った。
機嫌が悪くなっている。ここは黙って妻が戻るのを待つことにした。
時間を長く感じる。
父娘の距離感は難しい。考え過ぎはよくないのだろうが、上司部下の関係とは別な意味で難しいと思いながら目の前にあるショートケーキを見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!