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高校に入学して少したった、ある日のこと。
美姫と私がいるクラスに転校生がやってきた。
「狩野憧子(しょうこ)です」
黒板に書かれた名前の横に立ち、自己紹介をする転校生は冬の寒い日の朝の空気を思わせる凛とした雰囲気をまとっていた。
白い肌に黒のショートヘアは、学校の制服である紺色のブレザーと赤いネクタイがとてもよく似合っていた。
「すごく綺麗」
「めっちゃ美人……」
そんなひそひそ声が教室のあちこちから聞こえてくるのも納得だったが、憧子はそんな声に動揺するでもなく、恥ずかしがるそぶりもなく、ただ背筋を伸ばしてじっと前を見ていた。
(本当に綺麗……)
その雰囲気は私にとって好ましいものであったけれど、美姫はなんだか憧子のことが気に入らないようだった。
昼休みに机をくっつけてお弁当を食べている最中、美姫は短いスカートから出した足を組み直しながら、憧子について不満げに話していた。
「あれで、しょうこって読むんだって。変な名前」
「わかるー! ぱっと見、なんて読むかわかんないし」
「ほんとそうだよね」
(私は綺麗な名前だと思うんだけどな……)
「鶴田さんだって、あの子のこと、好きじゃないでしょう?」
他の同級生達が美姫に同意する中、心の中でそんなふうに思っていた私に思美姫は突然たずねてきた。
「えっと……」
(どうしよう……)
正直、私は答えに困った。
美姫の求めている答えはわかっている。
友達である私に同意してほしいのだ。
だけど、すぐ美姫の後ろの席にはひとりでパンを食べる憧子の姿があった。
憧子の隣に座っている同級生達は美姫と憧子を交互に見ながら、私の答えを期待した顔で待っている。
(あ、ここから飛んでいってしまいたいな……)
高校に入ってそう思うことがあった。
それはなぜか決まって美姫といる時だった。
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