2人が本棚に入れています
本棚に追加
中学生になったばかりのあの日。
すでにグループができあがり、にぎやかな教室の入り口でひとり佇んでいた私を助けてくれたのは昔話に出てくるお姫様みたいな女の子だった。
「ひとりだったら、よければお友達にならない? 私、美姫っていうの」
白い肌に毛先まで綺麗に手入れされてつやつやした長い髪。
そんな言葉とともに私に差し出された手はほっそりとして傷ひとつなくてとても綺麗だった。
肩の上あたりでそろえたくせっ毛と、子供のような丸くてふっくらとした小さな手をした私とは全然違うもので、本当にお姫様みたいだとドキドキしたことを今でもよく覚えている。
「鶴田、です……」
「よろしくね」
かさついた自分の手を恥ずかしく思いながら私は手を重ねた。
***
その日から、私は美姫とずっと一緒だった。
美姫は私のことを一番の友達だと言ってくれる。
美姫の一番の友達であることが、私の密かな自慢であり、自分に自信のない私が唯一できる自慢でもあった。
名前の通りに美しいお姫様のような美姫が、私のような美しくもなく何もない人と仲良くしてくれる。
それだけで、もう奇跡のようで、私は美姫の優しさに感謝した。
あの時、美姫が声をかけてくれたから、私は授業でペアをつくる時に惨めな思いをしなくてもいいし、休み時間をひとりぼっちで過ごさなくてよかった。
声をかけてもらったことはいくら感謝しても足りないくらいだ。
「鶴田さんがいてくれて、私、すごく助かる。これからもずっと一緒にいてね」
「うん。もちろんだよ」
その言葉を違えることなく私は美姫と同じ高校に進んで、これまでとかわりなく美姫と過ごしている。
ますます可愛くなった美姫は入学初日からあっと言う間にクラスの人気者になり、輪の中心にいる美姫に私は何だか鼻が高かった。
(そうだよ、美姫ちゃんは可愛くて優しくて本当にお姫様みたいな人なんだよ)
そんなことを思いながら、私は美姫を横目に黒板消しを手にして、黒板を消し始めた。腕を動かすたびに白や赤、黄色のチョークの粉が降ってくる。
けれど、これくらいどうってことはなかった。
「あ、ごめんね! 日直任せちゃって!」
「ううん、いいの。だって、美姫ちゃん忙しいから」
「いつもごめんね~、ほんと助かる」
美姫は私に背を向けると美姫を待っている同級生の元に駆け寄っていった。
そこに私がいないことは少し寂しかったけど仕方ない。
(それに友達なら困っている時に助けるのは当たり前のことだから)
そう思い、私は再び黒板に向き合った。
最初のコメントを投稿しよう!