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みるみる間に彼女を病魔が蝕み、強い薬の副作用もあって、ふっくらと柔らかだった体も薄い紙のような皮膚が骨の上に貼り付けられたようになっていった。
いくらかでも体力の残っているうちに賭けのような手術をすることになったのは、彼女の強い希望だった。
これさえ乗り切れたら…そう考えたようだ。
「行ってきまーす!今が3月だから、夏には海水浴行けるね」
手術室に向かうストレッチャーの上で、そう言って満面の笑顔でピースサインを寄越した。
海水浴、行けなかったな。それどころか家にも帰れなかったな。
ナースに聞いた話しでは、美春は治らないことを、手術が難しいことを、誰よりも良く知っていたそうだ。
ともすれば、気持ちの落ち込むボクを励まそうと彼女は、渾身の嘘をついていたんだ。
ボクがもっと、もっと、彼女を励まさなきゃならなかったのに、と己れの不甲斐なさばかりが悔やまれた。
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