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ETC編
「池手名さん、すみませんね。運転してもらっちゃって」
客先へ向かう車中、山本がいぞに言った。ハンドルを握っているのはいぞう。後輩の山本が助手席に座っていた。先輩のいぞうと客先へ車で行くことはたまにあり、普段は山本がハンドルを握るのだが、今日はいぞうがどうしても運転したいということでそうしてもらったのだ。
「いや、いいんだよ。今日はどうしても運転したかったんだ。世直しのためにね」
世直しのためとはどういうことだろう。山本はその発言に不安を感じたのだが、今更運転を変わるとも言えない。
「池手名さん、世直しってどういうことでしょうか?」
いぞうは、ふーっと息を吐き、無言で首を数回横に振った。山本の経験上、いぞうがこういった仕草をするときはろくなことを考えていない。いや、こんな仕草をしなくてもろくなことを考えていないのだが。
「山本、我々をとりまく環境というのは刻々と変化する。そして、そのスピードは凄まじい。違うかい?」
「はぁ、まぁ。そうすかね」
確かにその通りだろうと山本は思った。車の自動運転が実現可能なところまできていたり、AIが人間の仕事を取って変わったり、こんな未来は容易には想像できないかったかもしれない。そして、未知のウイルスが人々の生活を激変させるなど、誰も考えていなかったのではないだろうか。
「変化自体は自然なことだ。それに文句を言っても仕方がない。大事なのは、その変化に柔軟に対応していくことなんだ。それなのに、昔からずっと変わらないものもある。時代に追い付こうとせずにね。僕はね、変わらないことこそ、一番の悪だと思っているんだ」
(この人、ほんとにたまにだけど、いいこと言うんだよな)
「そうですよね。その通りだと思います。僕も時代遅れな人間にならないよう、気をつけたいと思います」
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